一つ足りない
公開日: 不思議な体験
何年か前に両親が仕事の関係で出張に行っていて、叔父さんの家に預けられた事がある。
叔母さんと中学3年生の従兄弟も歓迎してくれたし、家も広くて一緒にゲームしたりと楽しく過ごしていた。
しかし初めて来た日の夕食時、手伝いをしていて箸やコップをを並べていたら、
「○○(俺)君、コップが1個多いよ」と言われた。
それでよくよく見たら、箸や皿も4個配るところを5個配っていた。
その時は『馬鹿だなー、俺』くらいに思っていた。
※
その翌日、高校から帰って叔父家の玄関見た時に、妙な違和感を感じた。
叔母さんと従兄弟と叔父さんの靴が揃えてあったのだけど『誰かのが一つ足りない?』と何となく思った。
最初は俺の靴かと思い、一緒に他のと並べたみたけど、やはりどこか欠落感があった。
しかも、その日や次の日の朝食、夕食でも、昨日と同じ食器を余計に配る間違いをした。
『俺、疲れているのかなあ』と思っていたが、ここまで来ると妙に気になった。
※
居候してから4日目、深夜に突然尿意で目が覚めた。
隣のベッドを見ると従兄弟が寝ていたので、起こさないようにそっとトイレに向かった。
廊下を歩いてトイレの扉を見ると、隙間から光が薄っすら覗いていた。
誰か入っているのかなと思い、コンコンとドアを叩くと返事が返って来た。
中でガタゴトと物音がしているので、暫く待っていた。
多分、叔父さんか奥さんが入っているのだろう。
そう思い暫く待っていると、廊下から叔父さんがやって来た。
「ああ、奥さんが入ってるみたいです」と答えると、
「家内ならさっき私の隣で寝ていたよ」と、怪訝な顔をされた。
「え? でも今、本当に入ってますよ?」
慌ててトイレのドアを見ると、隙間から漏れていた光が消えていた。
ゾッとしてドアノブに手をかけると呆気なく開いた。中には便器以外には何も無かった。
本当に居たんだと主張したが、気味悪がられて相手にされなかった。
「部活で疲れているんだろうから、早く寝なさい」とも言われた。
納得いかないままその日は終わったが、1ヶ月経って叔父家をお暇するまで、叔父の家族の靴や服、食器の数の欠落感を感じる事が多々あった。
※
その後、正月に再び叔父と会って話していた時に、何かのはずみで、叔母さんは昔、従兄弟を生む前にもう一人赤子を妊娠していたと聞いた。
結局その子は出産が上手く行かず堕胎してしまったのだが、それから暫く叔母さんは従兄弟を妊娠するまで、その子が生きているかのような振る舞いをしていたらしい。
その話を聞いて、あの欠落感はもしかするとそれなのだろうかと妙に怖くなった。
叔父には話さないでおいたが、その赤ん坊はまだ叔父達と同居しているのかもしれないな、と思った。