毟られる髪

公開日: 洒落にならない怖い話

2133yih

中学時代、怪談ゲームを通して怪談話が好きになり、よく自分に構ってくれる母方従兄弟に怪談をせびってました。

従兄弟は新しいもの好きで、ロンゲメッシュと当時では珍しい格好、友達も多く色々な話を聞かせてくれました。

そんな従兄弟も就職し、じいちゃんも祝いではしゃいでいました。

じいちゃんは真っ白で背中の真中くらいまで伸ばした髪の毛を後ろで縛るという変わったファッションをしていたのをよく憶えています。

従兄弟が就職し、じいちゃんは釣り、ばあちゃんは畑仕事、伯母さんは仕事、従兄弟の姉は学校で、昼間誰もおらず遊びに行くことも減りました。

伯父はずっと前に火事で亡くなっていたそうです。

しばらくして、ポケベルを持つと従兄弟から連絡がありました。

「お前怪談好きだっただろ? 爺が釣り仲間に聞いた話があるから今度聞かせてやるぞ」

そんな内容だった気がします。

しかし、それからすぐにじいちゃんが亡くなり、聞く事をすっかり忘れてしまいました。

棺おけの中でじいちゃんは長かった髪の毛をすっかり無くし、坊主にしていました。

高校に入り、携帯電話を持つと従兄弟と電話する機会が増えました。

某大手百貨店に就職した従兄弟の話は仕事の話が多く、面白かったです。

高校二年頃、学校から帰ると従兄弟が家に来てました。実際に会うのは葬儀以来で、すっかり社会人らしく髪の毛を黒くし短くしていました。

丁度祖父の言っていたという怪談話を聞こうと思っていたので聞こうとしたのですが、母の制止に掛かり止められました。

その日の夜、今度ファミレスかどっかに行って話してくれるとメールが入り、楽しみにしてました。

しかし数日後に従兄弟は心臓麻痺で亡くなりました。

業務中にいきなりだったらしく大騒ぎだったらしいです。ストレスか何かでなったんではないかと言ってました。

葬儀には大手百貨店から大きな花が贈られており、大手会社から花を送られてくるほどの従兄弟を誇りに思ったのと同時に、その花が大好きな従兄弟の死を実感させてきて悲しくなりました。

母は実家で49日まで居るとのことでした。

従兄弟の仕事仲間とそこで知り合い、従兄弟の話を聞いてました。

「あいつ結構怪談とか好きでさ、こんな話をしてきたんだ。

あいつの爺ちゃんが聞いた話らしいんだけど、戦時中の話だ。

元華族、裕福な家で成績良く、運動も出来る、さあこれから国のために戦うぞって時に、肺結核になって兵隊になれなかった男がおったらしい。

そいつは村に残った女子供に病気だと忌み嫌われ、果ては恋人や友人にまで見つかれば石を投げられる始末だった。

怒ったそいつは村人を見返そうとするが、病気は一向に良くならず、体力がどんどん落ちていった。

死期を悟ったそいつは恋人だった女を山に誘って襲い、事が済むと女は逃げて、山に残されたそいつは体力衰弱とで降りることもままならなくなった。

翌日、男がいないので女は心配になり、襲われた現場に向かった。男は女を見ると追いかけた。なにやら恨み言を叫びながらだったらしい。

怖くなった女は再びそこから逃げようとするが、男に後ろ髪を掴まれ毟られたそうだ。

それからその女は子供を産むが、狂い死にしたらしい。そしてこの話を聞いたヤツはそいつに呪われると。

そこで終わりじゃない、呪いの内容はこうだ。

夢の中で、真っ暗、多分部屋の中で朝を探すんだ。

待てば良いってもんじゃない、光を探してつかまなきゃいけない。

でもそれはあるモノから逃げながらやらないといけない。

逃げてると暗闇の中からグワっと音がして、頭を捕まれる。みしっと音がして髪の毛を毟られる。

大体いつもそこでぎりぎり、光を掴んで目が覚める。

そこでみんな髪の毛を毟られずに襲われたらどうなるかと怖くなって、髪の毛を短くするんだ」

その時は戦時中って怖いなあくらいにしか考えなかったが、しばらくして、お骨を墓に入れるとかなんとかで再び母の実家へ。母は髪を短くしていました。

私は夢を見てません。母も健在です。しかし、日に日に母の髪が白くなって行きます。

怖くなり従兄弟の仕事仲間に聞くと、「大丈夫だろ、なんかその話ちゃんと神社で呪を封じてるとか聞いたし、俺そんな夢見てないから」とのこと。

それでも気になった私はどこの神社か調べようとしました。でも話の元となる祖父に話した釣り仲間が見つかりません。

この話を学校の友人に相談すると、「なんつー話を言ってくるんだよ、それ知ってる」とのこと。

もうすぐ来る夏休みを利用して神社を尋ねることにしました。

神社へは交通の便が悪く、着く頃には夕方になっていました。

神社に着き、そこに居た神社の人らしいおっさんを訪ねると、凄まじい勢いで追い返されました。

「どうせまた噂を聞いて来たんだろ、帰れ」と。

結局話をすることも出来ず、私と友人は今でもその夢を見ていません。

しかし、私の知る限り今までずっと長いままだった母の髪はあれから3年経っているのにまだ短いままです。

母から話を聞くと母が危ないような気がしてきて、聞けません。

従兄弟の仕事仲間とも連絡がつかなくなり、手掛かりがなくなりました。

いつか自分も夢をみて髪を毟られるのかと思うと…。

関連記事

黒い霧(フリー写真)

夢幻と現実の間で

私の母方の実家は熊本県にあるのですが、そこには常住している母の姉がいます。 その姉、私たちからはおばさんと呼んでいる彼女が、つい先日、我が家に遊びに来ました。 その時、偶…

海

お盆の夜釣りで見たもの

俺の実家は、岩手県のとある地方にある。 毎年帰省しているが、田舎には「本家」という、一族を統括する家が存在することを知っているだろうか。血筋の出所であり、親戚縁者の中心となる家…

鏡(フリー素材)

呪いのコンパクト

以前、井戸の底のミニハウスと、学生時代の女友達Bに棲みついているモノの話を書いた者です。 「巣くうものシリーズ」で纏めてもらったので、説明は省略します(※これまでの流れについて、…

5センチ

親が道警勤務なので、事件事故の場合は親父の出動の方がニュース速報よりも早い。 だから道内の事件事故の速報は、恐怖よりも『親父の仕事』のイメージが強かったりする。 でも、豊浜…

脱落者の烙印

上京してきた友人に聞いた話です。 友人は山奥の集落みたいな村に住んでたそうです。 その村ではいわゆる大地主一家が権力者で、一部の人は「様」付けで呼ぶほどの崇拝染みた扱いを受…

忌箱

廃神社の忌箱事件録

これは私が高校三年だった一九九六年十一月の出来事である。 私の町は山に囲まれた田舎で、放課後に遊ぶ場所といえば、人気のない廃神社しかなかった。 多い日で七人、少ない日で三…

サンドイッチ

高校生の頃、俺のクラスにいつも虐められているオタク風のデブ男がいた。実を言うと俺も虐めていた1人だった。 そんなある日の昼休み。俺はあるプリントを5時限までにやらなくてはならず、…

赤ちゃん(フリー写真)

違和感

私の母方の祖母は、以前産婆をしていました。 以前と言ってもかなり昔で、今から50年前くらいになると思います。 「どんな子も小さい時は、まるで天使のようにかわいいもんだ」 …

神秘的な森

角田の森

あれは小学6年の夏休みの事でした。 友人のHとTが角田の森で遊んでいた時、Hが奥の廃屋へ行ってみようと言い出したそうです。 当時、私達は角田の森でよく遊んでいました。 …

地下の井戸(長編)

これを書いたら、昔の仲間なら俺が誰だか分かると思う。 ばれたら相当やばい。まだ生きてるって知られたら、また探しにかかるだろう。 でも俺が書かなきゃ、あの井戸の存在は闇に葬ら…