お待たせ

公開日: 洒落にならない怖い話

Couples-In-Love-Hugging-Art-HD-Wallpapers

別れ話を大分こじらせたカップルがいて、彼女が彼氏に「見せたいものがあるから」と言って呼び出されたんだって。

長い付き合いで色々なものをあげたりもらったりしたから、“思い出の品” 的なものを見せて考え直させる気なんじゃないか…。

うざかったからその場できっぱり断ってやろうと思い、夜になってから彼氏のマンションに向かったんだそうだ。

彼氏のマンションのそばまで来てタクシーを降りたら、彼氏から携帯が鳴った。

「何よ? 着いたよ」

「おーい、ここ、ここ」

何だろうと思い50メートルくらい先のマンションの入り口を見ると、暗くてよく分からないけど人影があって、どうやらこっちに手を振ってるみたい。

わざわざ下まで迎えにきたのか…と思ったら脱力しちゃって、

「は? そこにいんの? なんか訳分からないんですけど」と言いながら入り口に向かって行ったら、

「あ、ごめん。忘れ物した。ちょい待って」って言うんだって。

「待つのだるいし、部屋に行く」と言ったんだけど、

「あ、いい。そこで待ってて。そこで」と言って聞かない。

「すぐ戻るから」と入り口に消えちゃった。なぜかその間も携帯は繋がったまま。

何考えてんのか訳分からないし、勝手に電話切ってキレられるのも嫌だし…。

「私急いでんの。バイトから直できたんだよ。終電もなくなるしさ…」

「ごめんごめん、すぐだから。すぐだから」

ガチャ、バタン、ドタドタと部屋の中であろう音がひとしきり聞こえて、それからエレベーターの来る「チン」って言う音が聞こえたので、『やれやれ、やっとか…』なんて思ってたら、重そうなドアを開ける音が携帯から聞こえたので、入り口の方を見たらまだ来てないみたい。

「ちょっと、どこよ」

「お待…せ…」

「ん? 電波悪いな。聞こえないよ」

「…待た…せ…」

「は?」

「お待たせ」

その瞬間、後ろ数メートルの方から物凄く大きな

「ドサッッツ!!!」

って音が聞こえて、もしやと思ったらやっぱり彼氏だったんだって。

街灯に照らされて、今まで見たこともないような量の血が、頭から止まらず流れている…。

警察の方曰く、わざわざ待っている場所を指定したのは、よく考えれば飛び降りる時に彼女を巻き込みたくなかった、悪く考えれば街灯の下の一番良いポジションで自分の事を見せるためだったんじゃないかと…。

“忘れ物” であったと思われる、屋上に残されていた遺書には恨みつらみなんかは全くなくて、ただただ自分が彼女のことをどれだけ好きなのかが延々と書き連ねてあったそう。

それ以来、彼女は色々な意味でダメになっちゃって、仕事も休みがちになり、もちろん男なんか作れない。

携帯もあれから一度も使ってないんだって。あのコンクリートにぶつかる

「グッシャアァ!!」

って音がまた聞こえてくるんじゃないか。

そう思うと電話を耳に当てることができなくなったんだそうだ。

関連記事

抽象画

神谷のおばさん

俺が中学生の時、『神谷のおばさん』という有名人がいた。 同級生神谷君の母親なので『神谷のおばさん』な訳だが、近所はもちろん同じ中学の奴まで、殆ど神谷のおばさんを知っているほど有名…

繋がった

祭祀 ― 封印された神と“繋がった者”

近所に家族ぐるみで懇意にしてもらってる神職の一家がある。 その一家は、ある神社の神職一家の分家にあたり、本家とは別の神社を代々受け継いでいる。 うちも住んでいる辺りではか…

千寿江

千寿江 ― 遺された名の呪い

もう色々済んだから、書かせてくれ。かなり長い。 父親には妹がいたらしい。俺にとっては叔母に当たるが、叔母は生まれて数ヶ月で突然死んだ。原因は不明。 待望の娘が死んでしまい…

新築分譲

つたない文章になりますが、お話させて貰ってもよろしいでしょうか? 自覚している限り、霊能力はゼロに等しいと思っている私が先日体験した話です。 少し状況を整理したいので前置き…

神社(フリー素材)

ふくろさん

大学二年の春だった。 その日僕は、朝から友人のKとSと三人でオカルトツアーに出掛けていた。 言いだしっぺは生粋のオカルティストK君で、移動手段はSの車。いつもの三人、いつも…

神社の生活

これは5年程前から始まる話です。 当時、私は浮浪者でした。東京の中央公園で縄張り争いに敗れて、危うく殺されかけ追放された後、各地を転々とし、最後に近畿地方のとある山中の神社の廃墟…

抽象的模様(フリー画像)

黒い影

私はずっと母親と二人で暮らしてきた。 父親は自分が生まれてすぐに居なくなったと母親から聞いた。 祖父や祖母、親戚などに会ったことは無い。そんなものだと思っていた。 そ…

画鋲

幼稚園の頃に画鋲を飲まされそうになった経験があります。 当時、私のいた幼稚園のサクラ組では「嘘はつかない」という簡単な法律があり、毎朝のHRでは「うーそついたら、針千本のーます♪…

田舎(フリー素材)

ワラズマ

子供の頃に変なものを見た。 遠縁で実際は血が繋がっていないんだけど親同士の仲が良いので、俺は夏休みになると毎年○家に何泊かしていた。 俺はその頃4歳くらいだった。 ※ …

アガリビト

山に還った者たち ― アガリビトの伝承

山は怖い。 その理由はいくつもある。幽霊、野生動物、天候の急変など、命に関わる要素がいくつも潜んでいる。 けれど、それらの中でも最も恐ろしいのは、「人間」だと俺は思う。 …