赤い誘導棒は右を指す
深夜の物流団地で、ナビは同じ案内を五回繰り返した。分岐に立つ人影が振る赤い誘導棒は、いつも暗い側道を右へ指している。前任の先輩が残した付箋の三行目の意味を、私は…
深夜の物流団地で、ナビは同じ案内を五回繰り返した。分岐に立つ人影が振る赤い誘導棒は、いつも暗い側道を右へ指している。前任の先輩が残した付箋の三行目の意味を、私は…
夕暮れの突堤に、毎週木曜の17時半だけ現れる名前のない老人がいた。灯油配達の私に、彼は決まって同じことを尋ねる。古い顧客カードを開いた夜、私は自分の家にも空白の…
嫁いだ干拓地の家には、海に向いた雨戸を一枚だけ閉めない決まりがあった。義母は膳を数えるとき、私の顔を見ない。塩の皿は朝ごとに湿り、腕時計には覚えのない四千歩が残…
洲影の郵便局の裏には、配らない葉書を入れる留め置き棚がある。入るのは消印の日付が翌日になっている葉書だけで、切手は貼られていない。宛名はいつも浜通りの十一軒。先…
山で道を失った話、いないはずの相手と交わした会話、時間や場所そのものがずれた話、そして一度離れたものが戻ってきた話。説明がつかないまま終わった不思議な体験の実話…
深夜の品出しのアルバイトで、俺と先輩は同じ紺のエプロンを着て、地下に残る旧魚市場の氷室へ降りた。だが石段を上がってきたのは一人だけだった。顔を笠で隠し名前も呼ば…
恩師の生まれ育った谷へ、やり残した測量の杭を打ちに向かった技師。凪の刻に迷い込んだのは、言葉も文字も通じない、少しだけずれた土地だった。毎日打たれる薄青い注射、…
神保町の裏通りで古書店を営む七十代の女性店主のもとに、亡き旧友の遺品が届いた。革表紙のアルバムを開くと、立っているはずの自分の位置に、見知らぬ少女が立っていた。…
梅雨入り前の北陸へ一人旅に出た若い看護師が、霧に包まれた古道で出会った、もう何十年も前に火事で焼け落ちたはずの茶店と着物姿の老婆。一夜のタイムスリップとも思える…
高知県の峠で長距離ドライバーが体験した不思議な出来事。使われていない公衆電話が鳴り出し、声が告げた「三十分後」が現実になった実話体験談。タイムスリップのような時…
佐賀県北部の農村の旧街道沿いに並ぶ石地蔵。帰省するたびに数えてきたその数が、いつの間にか増えていた。誰も置いていないのに。実話をもとにした怖い話。…
夜勤終わりに自転車で走っていたはずの国道が、雪の中で消えた。異世界に迷い込んだようなあの不思議な体験は、今も説明することができない。…
杉並区の古いアパートに引越した私は、押入れの奥に隠れた引き戸を見つけた。開けると昭和40年代の商店街が広がっていた。昭和42年の新聞の日付、駄菓子屋のおばさんの…
仕事帰りに立ち寄った山陰の温泉街。地図アプリが固まったまま迷い込んだ柳の路地の奥に、橘屋という古い旅館の提灯が揺れていた。翌朝目覚めると、私は車の中にいた。…
地域誌のカメラマンが取材で訪れた廃館前夜の映画館で、最後列に座る着物の老婦人を目撃する。客が全員帰ったはずの劇場で、床に落ちていた古い半券に書かれた映画のタイト…
父から引き継いだ棚田の水路管理。「向こう岸に何かいても見るな」と言われていたが、ある夜の見回りで向こう岸に人の形をしたものを見た。翌朝、管理していた分水板が一枚…
数年前の春、北陸の小さな漁港で、霧の夜に音もなく港へ戻ってきた一隻の漁船を見た。船体に書かれていたのは、半世紀前に沈んだ船の名前だった――冷静に語られる、海辺の…
十歳の夏、瀬戸内の小さな島で毎朝会った水色のワンピースの女の子。別れ際の言葉の意味を、二十年近く経って祖母の葬儀の夜にようやく知る、海辺の心霊ちょっと良い話。…
帰省中に地元の図書館で蔵書整理のバイトを始めた。閉館後の静かな書棚を整理するうち、何冊もの古い本に同じ筆跡で書かれた名前を見つけた。貸し出し記録にも寄贈記録にも…
残業帰り、いつものコンビニで買い物をして外に出たら、見知らぬ街になっていた。ドアは開かず、車も人もなく、細部がどこかちがう街を歩いた夜の話。…
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