ようやく笑い飛ばせるようになったんで、俺の死んだ嫁さんの話でも書こうか。
嫁は交通事故で死んだ。
ドラマみたいな話なんだが、風邪で寝込んでいた俺が夜になって「みかんの缶詰食いたい」と我侭を言ったせいだ。
嫁は近くのコンビニに買いに行き、滅茶苦茶な運転の車に撥ねられた。
俺は事故の事など全く知らず、『救急車来てるな~』と思いながらトイレに立った。
そしたら、台所に居る嫁の背中が見えた。
帰って来る物音が一切しなかったのにおかしいなと思いながら「いつ帰ってきたの?」と話しかけても、嫁の返事は無かった。
「みかんどこ~?」と聞いても黙ったまま(今考えると凄絶に阿呆だ)。
俺は嫁の機嫌が悪いんだと判断。そのまま寝室に戻った。
※
そして1時間後くらいに嫁の携帯から俺の携帯に着信。
電話をかけてきたのは病院の人で、この携帯の持ち主が事故に遭って意識不明ですと言う。
何言ってんのか解んなかったね。
嫁が携帯を落として、拾った人が事故に遭ったのかと思った。嫁は家に居るんだから。
だけど家中探しても嫁は居ないし、病院の人の言う服装や特徴が嫁と一致してたんで、何かの間違いだろうと思いつつ、万が一を考えて病院に行った。
行ってみたら、嫁が死んでた。
俺が家で嫁を最後に見た時、嫁はもう事故に遭っていて、俺はその時の救急車の音を聞いてたんだ。
※
その後、警察が来たり嫁の身元確認をしたり、俺が熱をぶり返して倒れたりで1日入院。
駆け付けた嫁の両親と一旦家に戻った。
そしたら、家を出る時には無かったはずの雑炊が鍋の中で冷めていた。
卵とネギとショウガがこれでもかと入った嫁の味の雑炊。
俺がショウガ苦手なのに、風邪を引くと必ず食わされた雑炊。
前日に家を出る時は絶対に無かったはずなのに。
ここまで、俺がみかんの缶詰が食えなくなって、ショウガが好きになった話。