私が小学校に上がる前の話。
当時、私は同じ外観の小さな棟が幾つも立ち並ぶ集合団地に住んでいました。
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ある日、遊び疲れて家に帰ろうと「ただいまー」と言いながら自分の部屋の戸を開けました。
でもそこは自分の部屋ではなく違う人の部屋で、暗い中でおじいさんが一人テレビを見ていて、こちらを振り向きます。
『うわっ、間違えた…』と思い、何も言わず慌てて戸を閉め、よく考えたら自分の部屋はもう一つ前の10棟の2階。そこは9棟の2階でした。
それで急いで10棟に移動し「ただいまー」と戸を開くと…。
さっきと同じ知らないおじいさんの部屋で、やはり暗い中にテレビが点いていて、こちらを振り向いて見ている。
『あれっ…』と焦った私は、またも何も言わず戸を閉める。
『あれっ、あれっ?』とパニック状態になり、階段を降りて場所を確認すると、さっき確かに10棟へ移動したはずなのに、自分が立っているのは9棟の前だった。
もう訳が解らず不安で仕方がなかったので、「おかーさーん!!」と叫ぶと、10棟の自分の部屋の窓から母が顔を覗かせ「あんた何してんの」と言う。
「おかあさん!!」と今にも泣きそうになりながら訴えると、母が玄関から出て来てようやく自分の部屋に帰る事が出来ました。
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その後、9棟の2階に住んでいるのはおじいさんではなく、夫を亡くしたおばあさんだという事が判りました。
今でもあの経験が何だったのかよく解りません。白昼夢だったのかな…。