俺はじいちゃんが大好きだった。
初孫だったこともあって、じいちゃんも凄く俺を大事にしてくれた。
俺はあまりおねだりが得意な方じゃなかったけど、色々な物を買ってくれた。
また、虫採りや泳ぎを教えてくれたり、デパート、遊園地…本当に色々な場所に連れて行ってくれた。
近くに大きな運動公園が出来るという時、俺と来るのが楽しみで仕方がないのか、まだ建設中のサラ地に連れて行ってくれるほど可愛がってくれた。
でも、その運動公園が完成しても、じいちゃんが連れて行ってくれることはなかった。
俺が小学4年生のある夏、突然死んでしまった。
完璧主義で我慢しいだったから、身体が良くないことをみんなに隠していたみたい。
遂に倒れてしまった時は、もう手遅れだった。
格好良くて何でも出来て、世界一のじいちゃんが死ぬ訳ないと思っていたから、葬式の時も実感がなく、寺までの道を一人で迷ったりしてへらへら笑っていた。
でも、家に帰って一人になってから、突然糸が切れた様に大泣きしちゃったんだけどね。
そんなこんなで、じいちゃんのいない日々をぼんやりと過ごしていた俺。
色々やることがあって自分だけでいっぱいいっぱい…だけど急に思い出すんだよね…じいちゃんのこと。
※
ある日、お盆だからじいちゃんの話を家族とした時かな。
じいちゃんを思い出して、葬式の日以来の大泣きをした。
剣道を始めたこと、絵のコンクールで入賞したこと、中学、高校無事に進学したこと…全部全部、じいちゃんに報告したかった。じいちゃんに喜んで欲しかった。
それが悔しくて悲しくて、泣いた。
そしたらさ…泣き疲れて眠って見た夢。
俺は夢を見る時って、大体行ったことのある景色が中心なんだけど、何か覚えのない、美術館のような白い空間にいた。
ぼーっと突っ立っている俺。すると遠くから人が歩いて来た。
…逢いに来てくれたんだ、じいちゃんが、俺に。
思い出の夢とか、じいちゃんが生きていたら…という夢ならよく見ていた。
みんなもそんな経験多いだろうけど。まあ、それが夢だもんな。
でもさ、違うんだ、その時は。
確かに夢なんだけど、俺はじいちゃんが死んでしまったと解っている。そのことで大泣きして寝たことも覚えている。
じいちゃんも自分が死んでいることを自覚している。
本当に夢の中にじいちゃんが逢いに来てくれてんだよ。
…まあ、そのことについて確信を持ったのは、もっともっと後のことなんだけどさ。
「○○(俺の名前)!」
厳格なじいちゃんが俺の前でだけ見せてくれる笑顔で俺を呼んだ。
涙が出そうだったけど、ぐっと我慢して駆け寄ったよ。
「元気か?」
「うん」
とか、本当他愛も無い会話を交わしてさ、その空間を二人で歩いていた。手を繋いでいたような覚えがあるな。
そしたら、いつの間にか水族館のような場所に着いたんだ。
よくあるだろ? ガラスのトンネルになっているやつ。あれ。そこに二人で入って行ったんだ。
俺は嬉しくて、きょろきょろ辺りを見回していた。それをじいちゃんも嬉しそうに見ていてくれていた。
それからも本当に夢中になって、何かを見つけたのか、ふとじいちゃんの方を振り返った。
そしたらじいちゃん、もういなかった。
必死で探した。もう大泣きだよ。だけど時間切れ。
覚める…と言うより、別の空間から戻されたような感覚がして目を開けた。
もちろん、涙がぽろぽろ溢れてきた。
※
その時は、不思議な夢だったな程度に思っていた。
さっきも言ったけど、逢いに来たんだと確信したのはもっと後。
というのは、次の年の盆、またあの空間に俺は居たんだ。
そこで初めて俺は、「ああ、これはじいちゃんが夢を使って俺に逢いに来てくれてるんだな」と実感したんだ。
今度は、二人でその白い空間をずっと歩いているだけだった。
離れないようにぎゅっと手を握って、視線もじいちゃんから外さなかった。
またいつの間にかいなくなっちゃったら嫌だからね。
でもな、やはり時間切れは来た。戻される感覚が近くなってくる。
俺はじいちゃんと固く握手して、「また逢いに来てね」と精一杯笑った。
じいちゃんが何を言ったか分からなかったけど、頷いてくれていたと思う。
記憶が曖昧なのは、刹那、眩しくて目を閉じてしまったから。
目を開けると、じいちゃんはいなかった。
俺は自分から現実の世界に戻った。
※
それからもじいちゃんは、盆になったら俺に逢いに来てくれる。
いや、結局思い込みじゃないかと言われるかもしれないが…本当に違うんだよ、あれは。
じいちゃんは母方の祖父なんだけど、母方の親戚には霊感があるという人が多いんだ。
そんなばあちゃんとおじちゃん(長男)も、盆に必ずじいちゃんに逢っているんだと。
夜に目を開けたらじいちゃんが立っていて、毎回何か一言言って消えるらしい。
とまあ、こういう話もあって、我が家ではみんな信じているんだな。
※
ちなみに、なぜ最初に水族館へ行ったのか、後から謎が解けた。
じいちゃんが死んでからだけど、親戚が住んでいる大阪に大きな水族館が出来てさ。
じいちゃんと行きたかったなと思っていたんだよね。
それをじいちゃんが叶えてくれようとしたんじゃないかな。
俺は実際そこへ行ったのに、夢では全然違う水族館だったから、多分じいちゃんが俺のために用意してくれた、俺達だけの水族館だったんだろう。
もっとよく見ておけば良かったなんて思っている。