サイトアイコン 怖い話や不思議な体験、異世界に行った話まとめ – ミステリー

付喪神

HSD10127

私の家は昔、質屋だった。

と言っても爺ちゃんが17歳の頃までだから、私は話でしか知らないのだけど、結構面白い話を聞くことができた。

その日の喜一(爺ちゃん)は店番をしていた。

喜一がレジ台に顎を乗せて、晴天の空を恨めしそうに見上げていた時、

「もし、坊やここの主はどこかね?」

喜一はビクっと体を大きくはねらせた。

全く人の気配が無かったのに、急に太った男が店の前に現れたのだ。

「えっと、親父は骨董市に出かけてて、夜まで戻らないよ」

喜一の言葉に、男は急に挙動不振になった。

「どうしよう…どうしようか? …いやしかし…」

男は何やらぶつくさ言い出した。

男はもう水無月になると言うのに、大きな虫食いだらけのコートを羽織り、帽子を深く被っていた。

男の成りを見て喜一は、『こいつは金に困ってガラクタを押し売りに来たタイプだな。動きがせわしないのは、きっと取立にでも追われているのだろう』と考えた。

男の独り言は、まるで相談の様。

「どうする? しかし時間が無いぞ、この子に任せてはどうだろう? でもこんなガキに全てを任せるのは…」

喜一は男の態度にイライラし、

「おじさん、冷やかしなら帰ってくれよ。今は買い取り出来ないからさ」

喜一がきつく言うと、男はガラクタが溢れ出るパンパンのカバンを悲しげに見つめて、無言で出て行った。

その日の夕方、「おいキー坊」と店に駐在さんがやって来た。

「なななな何、俺何にもしてないよ」

身に覚えは無いが、喜一は体を強張らせた。

「はは、お前に用はねぇよ。親父さんいるかい?」

今日の親父は人気物だ。

「夜まで戻らないけど、親父がどーしたの?」

喜一の声に、

「そうか、困ったな。たぶんお前さんちの落とし物だと思って持ってきたんだけどよ、確認の使用がねぇな」

髭をさすりながら駐在さんが荷車で運ばせた物は、昼に来た客の持ち物だった。

持ち物だけじゃない。服、靴、帽子全てだった。

「こんな骨董品扱ってるのなんて、お前さん家ぐらいだろう?

でも、落とし物としては不自然でな。

カバンの中だけじゃなく、服の中にまでパンパンに骨董品が詰まっててよ。帽子の中にまでだぜ?」

喜一はごくりとつばを飲んだ。

何かが起こった。もしくは、起こっていると感じたからだ。

駐在さんには見覚えがあると言い、荷物を店で預かり、一つ一つを広げてみた。

乱雑にガラクタが詰まっていた鞄の中から、一つだけ立派な桐の箱が出て来た。

「へその緒か?」

喜一は箱の中が気になったが、恐ろしさもあったため箱は開けず、親父の帰りを待つ事にした。

夜になり親父が帰って来た。

喜一は店から居間に入り、玄関の親父の元へと走った。

「親父!ちょっと来て!」

喜一の声に、ほろ酔いだった親父の目つきが変わる。

店に入りガラクタの山を見るなり、

「そうか、そうだったか…。喜一、俺宛の郵便持って来い」

喜一が何を言う訳でもなく、親父には何か解ったのか、喜一に命令した。

親父はここ3日、他県の骨董市(一種の寄合)に顔を出していたため、2日分の郵便物が貯まっていた。

親父は一つのハガキを見つけるとため息をつき、

「すまなかったなぁ…」

と、ガラクタに向かってぽつりと言った。

親父は数ヶ月程前、旧友の家に招かれた。

古い納屋を近々取り壊すため、中の骨董品を鑑定して欲しいと言われたのだ。

高値で売れれば、骨董品を頭金に納屋を新調しようとしていたのだが、どれも商品になるような物は無く、旧友は納屋の新調を先延ばしにする事にした。

ガラクタばかりだったが、親父は何かを感じたのか、納屋を取り壊す際に「骨董品を引き取らせて欲しい」と言い、旧友も快く承諾した。

ハガキは、『言い忘れていたが、取り壊しを2日後に行う』と言う内容の物。

あのガラクタ達は、納屋ごと捨てられるのを恐れ、親父の約束を信じ、ここまでやって来たのだ。

小さな小さな力を集め、ぎゅうぎゅうになってここまで来たが親父は留守。

そして道ばたで力尽きたのだった。

「これは?」

親父が桐の箱に気付いた。

「こんな物、あいつの家で見なかったが…」

親父が桐の箱を開けた。

「こいつは…凄いな…」

中には綺麗な石が入っていた。何かの宝石のようだ。

自分達がお金にならない事を分っていたのか、喜一にはそれが引き取り金に見えた。

「はは…律儀なもんだな」

そう言うと親父は、一つ一つを磨きだした。

ガラクタの中には、何に使うのか分らないような古い道具まであった。

修理された跡があり、大切に使われていた事が解る。

喜一は後悔した。昼間の事を。

ガラクタを丁寧に磨く親父の背中を見て喜一は、

『物にも人にも大切に接すれば、いつか自分にも、こんな素敵な奇跡が起るだろうか?』

と、そんな事を思いながら、親父と一緒に遅くまでガラクタ達を磨いたのだった。

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