小学校3年生の頃、夢の中でこれは夢だと気が付いた。
何度か経験していたので、自分の場合は首に力を入れるイメージをすると夢から覚められると知っていた。
しかしその時は何となく、もう少し夢の中で遊ぼうと思った。
立っていた場所はアスファルトの道の上で、夢の中をテクテクと歩き始めた。
暫く歩くとトラス構造の橋(柱を三角形に組んである橋)があった。
渡り終えたら景色が一変し、江戸時代の長屋のような所に着いた。
そこも通り過ぎようとしたら家が途切れ、コの字型に凹んでいる一画があった。
覗くと町人風の人達が20人ほど、半円形に並びこちらを見ていた。
その中心に、痩せていて長い髭を生やし、杖を持った爺さんが居た。
俺は何となくその爺さんに寄って行ったら、その爺さんも近寄って来て、
「覚めなくなってるじゃろ。これを持って行ってばらまけ」
と巾着袋を渡された。
ハッと気が付き、首に力を入れてみたが確かに目が覚めない。
焦り始めて袋の中を見ると、白色と金色が混ざった砂のようなものが入っていた。
それでも何となく夢から覚めたくない。
「早くばらまけ」
と爺さんに促されたが、焦りと、何故か夢から覚めたくない葛藤があった。
ちらりと右の方を見ると、自転車が置いてあることに気が付いた。
それに飛び乗って長屋から逃げ出した。
※
暫く自転車で走ると先が崖になっている場所に出て、そこに別に親しい訳でもない違うクラスの女の子(Sとします)が立っていた。
Sがニコニコ笑いながら
「早く撒いた方がいいよ」
と言ったので、しぶしぶ爺さんに貰った粉を袋から掴んで目の前に撒いたら、パッと目が覚めた。
※
起きると寝汗を掻いていて、夢がやたらリアルに感じられたのを覚えている。
Sとは高校の時に同じクラスになり、ちょいちょい喋るようになった。
男勝りだけど気さくな子で、クラスでは女の子のリーダー的な存在だった。
偶に夢のことを思い出したが、特別親しくなることもなく高校生活も終わり、俺は就職してSは短大生になった。
※
5、6年経った頃、高校のクラス会をやるというお知らせが来た。
行こうかどうしようか迷ったが、結局行くことにした。
会場にはSも居た。
思い出話に花が咲き、みんな元居た席から離れて思い思いの席に座り、肩を抱き合ったりどつき合ったりしていた。
ふと俺の前にSが座り、
「元気だった?」
と明るい調子で話し掛けて来る。
俺も軽い調子で応えて世間話を始めた。
お互いの話が途切れた時、Sが
「ちょっと変な話をしていい?」
と訊いて来た。
「いいよ。何?」
と俺が頷くと、
「私、小学校の頃、夢の中で夢って気付いてさ。
でも覚め方が解らなくて、夢の中を長い間歩いて泣きそうになってたら、知らない爺さんが出て来て『向こうに行け』って言われたの。
指を差す方に進んだら夢の中にアンタが出て来て、アンタが私の方に砂を撒いたら突然目が覚めたの。
あの夢、ほんとに印象に残ってるのよねえ」
一気に酔いが醒めた。
しかしこんな場所で俺の夢の話をして、色々と夢について話し合う気にもなれず、
「へえ。不思議な話やねえ」
と、よくある怖い話に相槌を打つような感じで応えた。
色々と軽口を叩いて話題を逸し、また別の世間話にずらして行った。
それからSとは会うことも無いが、今でもあの夢は何だったんだろうと思う時がある。