ウチのじじ犬オンリーだけど、俺は夢で犬と会話できるっぽい。
じじ犬と同じ部屋で寝ていると、大抵じじ犬と喋っている気がする。
「若いの、女はまだ出来んのか?」
「うるさいよ、じーさん。去勢されとる奴に言われたかないわ」
「やかましい。お前に種無しになる辛さが分かるか」
「知らんね」
「なら教えてやるわ」
「まあ待て、落ち着けじじい」
「お、宅配便が来おったぞ」
「マジで? 起きるわ」
これが一番新しい会話。この日の会話は全部覚えていなかった。
それで起きた時、ちょうどチャイムが鳴ってクロネコの宅配が来ていた。
※
俺は近所の人が知っている以上に近所の事について詳しい。
じじ犬に教えてもらった事をうっかり喋って近所の人が解雇された事を暴いてしまい、エラい事になった時もあった。
俺が大学に行っている間の事も何もかも知っているし、犬だから誰も警戒しないんだろうな。
※
確か高校2年生の時くらいからだった気がする。じじ犬の言葉が解るようになったの。
部活から帰って来て、畳の部屋で寝ていたら声を掛けられたんだよな。
歳なのは解るけど、「若いの」と呼ばれるのはちょっとアレな気がする。
皆んな妄想だとか言うけどねー。
※
クビ発覚事件
以下がその切っ掛けになったじじ犬との会話。
「若いの、知っとるか」
「何が?」
「斜向いのデカイのがおるだろう」
「田中さん(仮名)か?」
「そうそう。あいつは怪しいぞ」
「何でなん?」
「あいつ、朝に家を出た後、山師野町(仮名)で見かけた」
「別にえーやん。仕事中やったかも」
「有り得ん。ここ4日ほど見てたがおかしい」
「…最近、昼飯も食わずに家を出ていると思えば、出歯亀やってたんか」
「そう言うな。お前だってワシをほっといて大学に行ってるだろう。暫くは様子見だなぁ」
※
それから一ヶ月くらい経った頃かな。また声を掛けられて…。
「若いの。判ったぞ」
「何よ?」
「斜向いのデカイの、仕事が失くなったようだな」
「マジで?」
「何もせずぼーっとしとる。ありゃ確実だ」
「はー。なるほど」
「お前もああなってはいかんぞ」
※
その日の晩、おかんとメシを食っていた時うっかり、
「田中さん、クビなったらしいなぁ」
「そうなん!? あらー、ホンマぁ~。嫌やわ~」
というような会話をしてしまい…。
その次の週くらいに、おかんが田中さん家の嫁さんに、
「ご主人お仕事失くされたらしいですなぁ? お気の毒に…何でも力になるわぁ!」
と親切心バリバリで言ったところ、嫁さんはそんな事は知らず、その日の晩は罵声と怒号が飛び交いましたとさ。
※
その後の投稿
結構みんな喜んでいて嬉しい私とじじ犬の話ですが、何かエピソードと言われましてもあんまり無いんですよねぇ…。
何と言うか普通にじいさまとダラダラ喋っているのとさして変わらないというのがその理由なのかな。
偶に『あー、このじじいはやっぱり犬だな』と思う事があるけど。例えば「肉が食いたい」と言われた時とか。
正直クビ発覚事件くらいしか書く事が無いんですよ。
霊が見えたりすりゃネタにはなるんですが…生憎普通の犬だし。
そもそも何で俺は毎度犬と喋っている夢を見るんかね?
でも最近、意外な発見はあったな。犬を飼っている人向け。
※
ほねっこ
ほねっこってあるでしょ? アレの話なんだけど。
「若いの」
「何よ?」
「毎度貰ってるメシに注文付けて悪いんだが」
「うん」
「骨が欲しい。偽物の奴は嫌だ」
「あー、ほねっこ?」
「何というか知らんが昨日食べた奴」
「あー、ほねっこだわ」
「そのほねっこな、何か悲しいから本物の方にしてもらいたいんだが」
「ほう。でもあんた、喜んで食べてたやん?」
「何か噛み付かずにはいられんというか。それでも騙された感があって空しいのだ」
「さいかー。でも俺らもそんな感じやで?」
「そうなんか? 毎度色々美味そうに食ってるように見えるが」
「いや、そういう偽モン系よくあるで。カニカマとか」
「何じゃそれは」
「カニっぽいけど魚な食べ物」
「ほー。若いの。それよく食べとるのか?」
「割とよく食うなぁ。小腹減った時とか」
「ほう。みんなそれなりに苦労を抱えてるんだなぁ。我慢する」
「苦労ってほどやあらへんけど…まあ、おかんに言うとくわ」
「よろしゅうたのむ」
だそうで、ほねっこは空しいらしいです。
出来るだけ本物の骨をあげてください。個人差はあると思うけど…。
鳥の骨はダメですよ?