昔、化粧品店とエステサロンを兼ねた店に働いていた。
事情があり、店長の家に住み込みすることになった。
いつも店長は遅く出勤して来た。
「頭が痛い」「体が重い」と口癖のように言う。
病院に行っても、どこも悪くないと言われたらしい。
一応、知っていた霊媒師さんをさり気なく勧めてみた。
余程辛かったのだろうか。本当にその霊媒師さんの所へ行ったらしい。
でも、追い返されたとのこと。
玄関に入ると、その霊媒師さんは声が殆ど出なくなり、
「強い霊が憑いている。私の力では祓えない」
と帰されたらしい。
※
私たち友人三人は、冷やかしではなく霊媒師巡りをしていた。
そこは金銭ではなく、するめやお酒を持って行けば祓ってくれた。
「色情魔の霊が憑いている」
三人とも同じことを言われ、一人ずつ祓ってもらった。
おいおい、色情魔はないだろ。失礼だなと思っていると、友人二人は号泣している。
「何故、涙が出て来るのか分からない」と言いながら号泣している。
「良いのよ。それが自然なの」と霊媒師さんが言う。
私は涙が出てこない。何故? 色情魔が強いの?
号泣している友人が羨ましかった…。
※
店長にはその霊媒師さんを勧めた。
でも断られ、自分で霊媒師を捜して来た。
お祓いの日は霊媒師さんが使うものを用意しなければならず大変だった。
霊媒師さんが来た。手には太鼓のようなものを持っている。
店長の他界した父親の写真を中央に置き、霊が話すことを他界した父親が聞く。それを霊媒師に伝えるというやり方だった。
「ドンドンドン…」
太鼓のようなものを叩き、除霊が始まった。
皆が手を合わせている。
私は暫くして居眠りをしてしまった。
何日も前からラップ現象で殆ど寝ていなかったからだろうか。
※
隣の子に起こされた。
友人はうたた寝していた私を親切に起こしてくれたのだと思っていたが、違っていた。
「○○ちゃん、あれ見て」
指差したのは、店長の父親の写真。
霊媒師さんが何か言うのと同じタイミングで、写真の口が動いている。
その子も私も除霊が終わるまで、耳では霊媒師さんの言うことを聞きながら写真を見ていた。
最後まで、写真の口は動いていた。
除霊が終わる頃には、微笑みを含んだ口元になっていた。
「これを全ての部屋の入り口に貼るように」
と御札のようなものを置き、霊媒師は帰って行った。
ところが、セロハンテープで全ての部屋に貼り、5分もしないうちに剥がれてしまった。
セロハンテープが悪かったということにして、画鋲で貼ることにした。
※
店長に憑いていた霊は、そこの土地に以前住んでいた人だったらしい。
お婆さんと孫。
憑いてはいないが、家の周りにはその頃の近所の人の霊もかなり居たらしい。
そのお婆さんは蛇を奉っていたらしく、近所の人もお婆さんと一緒に蛇を奉っていたらしい。お婆さんの応援(?)だろうか。
お婆さんは『蛇を奉って欲しい』がために、店長に憑いたらしい。
私は商売人ではないから分からないが、狐や蛇を奉る人が居るらしい。
最悪なことに、社長は狐を奉っていたがために、お婆さんの願いは叶えることが出来なかった。
蛇は水が好きだから庭に池を作れば良い、ということも出来なかった。
仕方なく毎朝お水を撒き、供えることにした。
除霊も終わった。店長の父親の写真も笑顔だった。全てが終わった。
でも、終わっていなかったのかもしれない…。
※
後日、店長が不思議な行動をした。
風呂場に行って冷水を浴び、玄関の方向へ這って行くのだ。
不気味だった…。
本人は何をしたのか覚えていない。
こんなところに居たくない。
私は「母親の具合が悪いので、自宅に帰ります」と嘘をついて帰してもらった。
ついでに、友人と一緒に仕事も辞めた。