長野県Y郡の旅館に泊まった時の話。
スキー場に近い割に静かなその温泉地がすっかり気に入り、僕は一ヶ月以上もそこに泊まったんです。
その時、宿の女将さんから聞いた話をします。
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女将さんには昔、お姉さんが居ました。
とても明るい性格で、二人はとても仲が良かったそうです。
ある日、冗談半分に
「あの世ってあるのかねぇ」
という話題になったそうです。
話には聞いたことがあるけれど、本当にあるかどうか誰も確かめられない訳で、もちろん二人とも結論など出せるはずもありません。
そこで、女将さんはお姉さんに
「もしどっちかが死んで幽霊になったら、お互いに分かるように合図を決めておこう」
と言いました。
お姉さんは、
「うーん、じゃあ、もし私が死んだら、お通夜の日に電気を真っ暗にするわ。私、ビックリさせるのが好きだから」
と屈託なく笑って言い、女将さんも
「じゃあ、私も」
と笑って答えたそうです。
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暫くして、お姉さんは突然の交通事故に遭って亡くなってしまったそうです。
幸い遺体は損傷も無く、死に顔はとても綺麗だったそうです。
急の事態を聞き付けた親類や知人、葬儀屋さんが集まり、通夜が行われました。
そして…。お坊さんが通夜の読経を上げている真っ最中、突然停電が起きたそうです。
突然の事態に、葬儀屋さんもお坊さんも、親類も知人も大慌て。
周りを見ると停電になっているのは自分の家だけのようだったので、葬儀屋さんはブレーカーが落ちたのだと思いました。
しかし懐中電灯を取り出して調べるも、ブレーカーは正常な状態。原因は全く不明。
その時、お女将さんは思ったそうです。『あ、あの時の約束だ……』と。
そして振り向くと、死んだはずのお姉さんが玄関に立っていて、声にならない声で
「あるみたい」
と笑ったそうです。
その刹那に電気が回復し、お姉さんの姿は消えてしまったそうです。
女将さんは『お姉さんは本当にイタズラ好きだ』と思い、まさかこんなことみんなには言えないから、ずっと俯いて黙っていたそうです。
でもそのお陰で、お姉さんは死んだのではなく、今は自分の行けないあの世に行っただけで、自分も行けば会えるのだ……と、死生観が変わったそうです。
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女将さんは霊感があるとかオカルト好きな訳ではなく極普通の人で、凄く素直に屈託なく話してくれたので、この話は本当のことだと思っています。