35年前くらいの事かな。俺がまだ7歳の時の話。
俺は兄貴と2階の同じ部屋に寝ていて、親は一階で寝ていた。
その頃は夜21時頃には就寝していたんだけど、その日は何だか凄く静かで、窓から夜空を眺めると月が明るく雲一つ無いとても綺麗な夜だった。
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トイレに行こうと部屋を出て、廊下にある窓をふと見ると、庭にある大きな杉の木の太い枝に誰かが乗っていて、こちらを見ている。
月光を背にしていたからあまり鮮明には見えなかったんだけど、その人影らしきものに目を奪われ、ポカーンとしていたのを覚えている。
何か羽根のようなものが生えていたのか、それがマントなのかは分からない。あとチャンコのようなものを羽織っていて、下駄のような履物を履いていた。
そしてその何者かと目が合って30秒ほど経つと、その物体はバサバサッと羽のようなものを羽ばたかせて飛んで行ったんだ。
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その時はまだ子供だったから、怖いという感覚は無かった。ただ、とても不思議な感覚を覚えている。
飛んで行く時、俺に手で軽く会釈をして行ったのを今でも覚えている。
当時住んでいた所は新潟の田舎だった。
その夜は特別空気が澄んでいて、今考えると虫の鳴き声も無かったように思う。
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翌日、その杉の木の下に行った。
そしたら何かの羽根のようなものが落ちていた。
でもその時は『何だこれ?』という感覚しかなかった。
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その夜、俺はもう一度あの人影に会いたいと思い、深夜に廊下の窓へ向かった。
すると「バサバサバサッ」という音が聞こえ、同じ杉の木にあの日と同じ人影が降り立ったんだ。
俺がゆっくり手を振ってみたら、彼も同じように手を振った。
それでまた30秒ほど見つめ合った後、彼は横を向いた。その横を向いた時の衝撃は今でも忘れられない。
クルッと横を向くと、何と鼻がとても長い…。
そう、あれは天狗だったんだ。
その後のことはよく覚えていないけど、朝目覚めたらまた同じような毎日が始まった…。