小学生の頃、学校の七不思議が幾つもありました。
それはとっくに七不思議を超えていて、私が知る限り50個はあったのです。
その中に『逆上がりさん』という七不思議があって、当時3年生の私のクラスで大流行したのです。
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夕方4時44分に奥から4番目の鉄棒で逆上がりをすると、逆上がりさんが話しかけてくる。
逆上がりさんは、逆上がりをもう一度して欲しいと頼んでくるので、必ず逆上がりを成功させなければいけない。
成功できなかったり逃げたりすると、逆上がりさんに鉄棒にされてしまい、一生学校に居ることになるという話でした。
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逆上がりが時々しか出来なかった私はその話がとても怖くて、放課後に学校に残ることはありませんでした。
しかしある日、図書委員の集まりで5時まで居残る日が決まってしまったのです。
親にその日は休みたいと言ったところ、怖い話に詳しい母は「話の主人公が鉄棒になったら、どうしてその噂ができたのよ」と言われ、それもそうかと図書委員の集まりに行くことにしました。
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それでも帰り道に鉄棒の前を通ることが怖く、遠回りしようかと思いましたが、遠回りの道はあまり利用されていないのでもっと怖いです。
仕方なく鉄棒の前を通ると、一番新しく設置された鉄棒に何か違和感を感じました。
鉄棒の手すりの部分が、少しトゲトゲしているように見えるのです。
それも何か小さな手が沢山生えているようにも見えました。
一緒に帰っていた友達に言おうとしましたが、一瞬目を離した隙に、その鉄棒は元の綺麗な鉄棒に戻ってしまったのです。
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あの時見た沢山の手は、怖いと思っていた脳が創り出した幻覚だったのでしょうか。
次の日の朝、雨の中でその新しい鉄棒を見ると、伝って落ちる雨が泣いているように見えました。それもきっと気のせいでしょう。