不思議な体験や洒落にならない怖い話まとめ – ミステリー

黄泉の国の体験

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同窓会の案内が来て、中学生だった当時を懐かしんでいたら思い出したことがある。

この間の夜、ふと目が覚めると目の前に血を流した女の人がいた。

寝ぼけていたし起こされてムカついたので、女の顔を思い切り掴んで散々文句を言ったら消えたから寝直した。

普通だったら気絶して気が付いたら朝でした…というオチなんだろうな。

しかし、私は幽霊だからといって怖がる人間ではないんだから仕方ない。

中学2年の時、ある体験をしてから幽霊を無闇に怖がることがなくなったからだ。

私も小さい頃は、黒いモヤを見て怯えたり、夜部屋に血を流した女の人がいたら布団を被って震えていた。

そのせいかどうか分からないが、性格は内向的でおとなしい子供だった。手のかからない子とよく言われた。

小学校高学年の時、親の仕事の都合で田舎から都会に引っ越した。

全校生徒100人もいない小さな小学校から、全校生徒1000人規模のマンモス校に変わり、環境に適応できる訳もなく…。

友人と言える人も殆どできず、休み時間は机に突っ伏して、昼休みは図書館に行って過ごしていた。

男子からは悪口を言われる、物を隠される等のいじめをされ、女子からは無視というか空気として扱われていた。

そんな状況が何年も続き、内向的な性格はますます悪化して行き、中学2年の夏になった。

その年の夏は例年よりも平均気温が高く、私はうだるような暑さの中、部屋の中で寝転がってぼーっとしていた。

ふと何もかも面倒臭くなった。学校の人間関係とか、将来とか、自分を取り巻く何もかもが。

そして、その日から食事をしなくなった。水は飲む、そしてひたすら寝た。

夏休みも始まっていたし、とにかくひたすら一日中寝ていた。

8月の中旬になった頃には、立とうとすると膝から崩れ落ちるようになり、起き上がることができなくなっていた。

一日中ぼんやりと布団の中で過ごしていた。何を考えるでもなく、一日一日が終わるのを見ていた。

今なら拒食症という病名が付くんだろうが、親には夏バテだろうくらいにしか思われていなかった。

その頃から、同じ夢を毎日見るようになった。

気が付くと、大きな川岸にいて対岸を眺めている。

対岸にはモヤがかかっていて、よく見ることはできないが、人がいるような影が動いている。

ぼんやりしていると、おじいさんがやってきて帰れ帰れと言われて追い払われ、目が覚める。

10日ほど同じ夢を見続けただろうか、時間の感覚がはっきりしないので分からないが、いつもは追い払われるだけだったのに、その日はおじいさんが話しかけてきた。

「お前はいつもいつもここにいるが、ここはまともな人間の来るところではない。解ったら帰りなさい」

私は、来たくて来ている訳ではない、私はろくでもない人間だし、帰っても良いことはない、何だったら向こうに渡ってどこかに行ってしまいたいくらいだ、というようなことを答えた。

おじいさんは面倒くさそうな顔をして、私を大きな建物に連れて行った。

建物の中は市役所のようなところで会議室があり、私を連れてきたおじいさんを含め3人のおじいさんと話をした。

「ここは悪いことをした人間の来るところだ」「お前はなぜここにいるのか」

私は先程のおじいさんに言ったのと同じ説明をした。

すると、映像を見せられた。

詳しくは覚えていない、でも吐き気を催すほどの残虐なことをしている人間の映像だったことは覚えている。

「悪いこと、ろくでもない人間とはこのような人間のことだ。お前はこんな人間なのか」

おじいさんは私に尋ねた。

私は映像の気持ち悪さに涙目になりながら首を振った。私はあんな人間じゃない、あんなことをする人間では決してない。

おじいさんはにっこり笑うと、次は別の映像を見せられた。

私の小さい頃からの思い出だった。

そして、思い出した。毎日ご飯を作ってくれるお母さん、笑わせてくれるお父さん、遊んでくれたお姉ちゃん、そして私にも少なからず友人がいたこと、いじめを先生に報告してくれた子、一緒に図書館で本を読んだ子…。

気付いたら私は泣いていた。

私はまだ何もしていない、健康な体があって何でも言えるし、何でもできるのに、今まで何もしてこなかった。

でも、向こう側に行ったら本当に何もできなくなるということを本能で感じていた。

泣いている私におじいさんは「向こう側に行きたいか」と聞いた。

私は思い切り首を横に振った。

おじいさんは安心し切ったような笑顔で私の肩をぽんと押すと、後ろに倒れる感じがして…。

そこで目が覚めた。布団から上半身を起こすと、急にお腹が空いている感覚がしてぐーっとお腹が鳴った。

「おかあさん、お腹すいた」と話しかけると、母親は私を見て驚いた顔をして「痩せすぎじゃない? 大丈夫?」と言った。

「そういえば最近全然食べてなかったじゃない。夏バテだと思ってたけど病院行く?」と心配されたが、「大丈夫」と言ってご飯を食べた。

体のことを考えて少量づつ食べるようにし、すぐに元のように食事ができるようになった。

体重計に乗ると65キロが45キロになっていた。驚いた。

2学期が始まると別人扱いされた。

私は男子の悪口は完全無視をし、女子の大人しい子のグループに入り、マンガの貸し借りをするくらい仲良くなった。

少しずつ他人と関って行こうと思った。

あれは臨死体験だったんだろうか。

だとすれば、死とかあの世は意外と近くにあるんじゃないだろうか。特別なことでも何でもない。

死んだらあのおじいさんたちがいるところに今度こそ行くんだろうか。

だったらそんなに怖いところじゃないんだな。話は通じるし、この世と大して変わらないようだったし。

そんなあの世とか死とかを考えている内に、幽霊なんて死んでいるだけで、生きている人間と大して変わらないのではないか、という気がしてきた。

死んでいるからなんだ、体がないだけなんだ、無意味に怖がるなんてそれこそ差別じゃないか。

この世にいて物理的に何かができる生きている人間の方が余程恐ろしい。

当時の私はそういう結論に達した。

それ以来、黒いモヤが見えても関わりたくなければ無視をし、夜中に血を流した女の人がいたら文句を言うようになった。

文句を言うと意外とあっさり消えてくれた。しつこいと殴った。

そんなこんなでアラサーになった。今度同窓会があると葉書が来た。もちろん出席しようと思う。

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