昔ウチの近所に結構有名な墓地があって…。
当時俺は、よく友達と近所の大きな公園で、自転車を使った鬼ごっこをしてたんだ。
ある日、リーダー格の友人Aの意見で、公園内だけではつまらないという話になり、その日は墓地の方で鬼ごっこする事になった。
メンバーは5人、ここでは俺、弟、A、B、Cにする。
出入り禁止の場所を決めてジャンケン。鬼はB。俺と弟とCは同じ方向に逃げたんだが、Aだけが反対方向に行ってしまった。
弟は基本的に俺と同じ方向に逃げるんだが、初めての場所で少し緊張していたというのもあり、弟に「こっちに来るな」と言って、Aの方に逃げさせた。
少し経って俺とBはCに見つかり、一旦集まろうという話になったんだが、いつまで経っても弟とAが帰ってこない。
集合場所も決めてあったので、遅いなと思いつつも帰ってくるだろうと思い、その日はみんな習い事やら何やらで解散。
確かその日は火曜日で、習字の日だったと思う。一時間くらいして帰ってきたんだが、弟が泣いている。
なにがあったのかよく分からないが、ちょっと経ってから、落ち着いたところで話を聞いてみると、どうやらAの様子がおかしいらしい。
弟の話を詳しく聞いたところ、弟と逃げていたのだが、弟がいると逃げるのに邪魔になり、Aは先に行ってしまったらしい。弟も必死で追いかけたのだが、Aを見失い探す。
その場所は寺や細い路地が多く、鬼ごっこには恰好の場所だったのだが、すると鬼のBが探してるのが見えて、少し路地裏に隠れたらしい。
すると、細い路地の奥の方にAの自転車が。いつもAは『自転車を置いて他のところに隠れる』という手を使っていたため、弟もそれに感づいたらしく、自転車のない方向に向かって行った。
すると、そこにAがいた。しかし、どう見ても体勢が変だった…。立ったまま動かなかったらしい。まるでAの周りだけ、時が止まっていたように。
弟がいくら声をかけても動く気配すら見せず、揺すっても動かない。それで10分くらい居たのだが、だんだん弟も怖くなってきてしまい、その場から逃げた。そして帰ろうとしたのだが、道に迷ってしまい遅くなったらしい。
どう考えても変だと思い、弟と俺と母の3人でその場所に行ってみた。弟の記憶もあやふやで、そこに辿り着いたのは、家を出てから1時間以上経って体と思う。
殆ど断片的にしか憶えていないが、そこは薄暗くて子供心に不気味な場所だと感じた。
神社の近くだったのもあるかもしれないが。幼い頃の俺は極度の怖がりで、弟と一緒に母の服を掴みながら、そこに入ってたのを覚えている。
その道を進んで行くと、そこの小道を入って行った所にAの自転車があった。そして、そことは反対側の、人気が無い道にAはいた。
…しかし、Aの体勢がどう見てもおかしい。Aは隠れようとしていたのか、小道に入った物陰の脇にいたのだが、蝋人形のように固まっていた。
まるで、Aの周りの時計の針だけが止まったかのように、全く動かなかった。体勢として、Aは少し前かがみになっているのだが、片足だけ中途半端に上がっていて、もう片方の足だけでバランスを取っていた。
それは、人間が取れるような体勢じゃなかった。分かりやすくいうと、マトリックスの特殊効果ような感じ。マトリックスのCM見てA思い出したし(笑)。
どう見ても人間のが取っていられる体勢ではなく、明らかに奇妙な光景だった。
Aを見つけて、もうかれこれ10分くらいそこにいたのだが、明らかにAは、ふざけてやっているようには思えなかった。と言うより、わざとできるような体勢じゃなかった。
そして、弟の話が本当なら、もう4時間はその体勢だったと思う。
そんで少しして、唐突にウチの母が、Aの腕をぐいっと引っ張ってみた。するとAが突然「ぐわっ」っとつんのめるように動き出した。
その瞬間、Aは訳が分からない様子で「なんでみんないるの?」などと言っていた。なんか多少疲れているみたいだったが、その間の事は何も覚えていない様子で、感じとしては「少しのぼせた」という様な状態だった気がする。
そういえば、途中からAの母も合流していたな。確か、ウチの母がAの家にも電話したんだと思う。その辺は詳しくは覚えていないが。
今思い出した。Aがいたのは、道の真ん中に木が生えてた所だった。今でも不思議だよ。
一時間かけてAを見つけて、それで10分ぐらいそこにいたんだ。かなり昔の事なので、時間感覚は曖昧だが。
Aの話によると、みんなで鬼ごっこをしていて、弟を振り切って1人で隠れようとしてたら、急に母親に手を掴まれていたらしい。
落ち着きを取り戻したAの言い分としては「今隠れようとしてたのに、もう鬼ごっこは終わってて夜」…どう考えても不思議だった。
その後、何度か同じ話を聞いたのだが、やはりその時の記憶は一切なく「気付いたらもう夜だった」としか言わなかった。
※
取り敢えず話は、今から一年くらい前に遡る。Aは、Bとあと2人とバンドを組んでいたんだが、ある日、Aの友達のライブがあり、興味のあった俺はそのライブに遊びに行き、ついでに打ち上げに出た。
その日は終電で帰る予定だったのだが、Bが泥酔してしてしまい、打ち上げ会場の近くにある、共通の友人の家に置かせてもらうことになった。
そしてBとDをそいつの家まで送ってたら乗り過ごしてしまい、やる事もないので2人で6駅くらい歩いて帰る事に。
それで一時間くらい歩いてきたんだが、地元近くに来た時、あの話題になった。Aもやはりあの事が不思議だったらしく「自分が固まったとは思えないが、全く記憶がない」と言っていた。
それで「せっかくだし、そこに行って2人で検証してみよう」という話に。時間はもう朝の3時頃かな? そこは墓や神社の多い地域で、かなり不気味だった。
それから、2人の記憶を頼りにそこに向かった。少しビビりな俺と、ビビりだけど強がるA(笑)。
1時間は探してたかな? 取り敢えず結構時間かって、少し明けてきた頃、Aが突然「ここ憶えてる」と言った。
俺の記憶にはない場所だったが、Aの言う通りに2人で進んだ。すると、細くて暗い階段があり、そこを下りた先の細い道にでた。
俺は階段なんか降りた記憶は無かったが、多分俺が来た方向とは逆だったらしい。そして、俺の見覚えのある道に出た。
軽く辺りを見渡す。そして気付いた。Aが驚いた顔で、自分の腕を掴んでいる。そしてAが、俺の手を取って走ろうとしていた。俺はAに引っ張られるまま、その場を離れた。
そして気付いた…いつの間にか日が昇っている。時計を見ると、もう既に昼前だった俺は訳が分からず、取り敢えず変な汗が出てきた。
俺はAに引っ張られて、来たはずの道を走った。この辺の記憶がないんだが、走ってる途中で気付いた。…俺とAは、あの日のAの様に『止まっていた』のかもしれない。
取り敢えず、Aと俺は息が切れるまで走っていた。走っている間も、頭が混乱していてよく分からなかったが、Aに「どうしたんだ?」とか声をかけていた気がする。
そして気付いたら、見覚えのあるような無いような場所。墓場の辺りの細い道だった。
前にも書いた通りこの地域は墓が多いのだが、かなり広く、しかも民家と隣接している事が多いため、高い塀が沢山あり、一度入ってしまうと迷って出られない雰囲気だった。
息を切らしたAと俺は、ダラダラと汗をかいていた。夏だったから、ポタポタとすごい量の汗が流れてた。
すると、Aが突然道の隅で吐き出した。一瞬『やばいものでも見たのか?』とは思ったが、どうやら息切れと水分不足で、軽い熱中症になった様子。
取り敢えず、近くのコンビにで水を買い、一時間くらい休憩してた。
その間Aは少しうつむき加減で、明らかに様子がおかしかった。さっきまでとは違い、殆ど言葉を発さなかった。
「不思議だったな」とか「大丈夫か?」と言っても「…うん」と答えるだけ。が、俺はただAが脱水症状で気分が悪いのかと思い、そこはあまり気にしなかった。
俺が気になっていたのは、さっきの事。あの頃のAと一緒の状態だったのか。今まで体験した事の無い現象に、なんだか奇妙な感覚に陥っていた。
そしてAが落ち着いてきた頃「今日は家に帰って休むか」という話になり、訳も分からないまま帰宅する事になった。
※
次の日の事だ。
やはり俺は前日の事が気になっていて、Aに電話してみた。何回も電話したが、Aは出なかった。いつもはすぐ返信の来るはずのメールも、その日ばかりは返ってこない。
次の日も俺はAに電話してみたのだが、Aからは全く音沙汰ナシ。俺はやはり、あの日の出来事とAの様子が気になって、バイト帰りにAの家に寄ってみた。
家のチャイムを鳴らすと、Aの妹が出てきた。そして話を聞いたのだが、やはりAの様子がおかしいらしい。
Aはぼーっとしたまま虚ろで、殆ど何も言わず、食事もあまり取ってないらしい。
俺は、やはりあの日何かあったのかと思い、Aの家に上がらせてもらい、Aと話してみようとした。
Aの様子が気がかりだったが、Aを驚かせて元気付けようと、尻を半分以上出して、勢いよく戸を開け部屋に飛び込んだ。
Aの部屋の戸を開けると、部屋はラジオだけが点いていて、明らかに精気が抜け落ちたようなAが座っていた。
Aは少し反応してたが、明らかにいつものノリではない。俺は心配になり、メールの事や体調の事を心配しつつ、やはり遠まわしにあの話を聞こうと思った。
Aは、少し体調は悪いのだが大した事はない。メールは後で返すつもりで、人と喋る気にはならなかったらしい。
そして、本題のあの話。取り敢えず、どう話して良いのか分からなかった俺は、真正面「あの時何があったのか?」と訊いた。
しかしAは「何も無かった」としか話さない。少しまずいかなと思ったが、俺も混乱と興味本位で何度も聞いてしまった。
するとAは「これ以上訊かないでくれ」とため息のように言い、それ以上は訊くに訊けなくなってしまった。
俺はそれまで、奇妙な体験をしたという事の興味本位だけで考えていたのだが、Aのここまで変わってしまった姿を見て、ただただ恐怖感に駆られた。
それからAの事を心配しつつも、本当に怖くて、けどやはり興味がある日が続いていた。
Aのことは気になっていたのだが、やはり何も聞けない日が続く。気付いたら、Aとは連絡が取れなくなっていた。
※
そして2週間ぐらいして、少し忘れていた頃。俺は友達と遊んでいたのだが、偶然にもAのバンドメンバーと街で会った。
ライブで何度か話したり、打ち上げで飲んだだけの関係の奴だ。取り敢えず俺も買い物に疲れていたので、そいつの連れとの3人で、駅前のマックに入った。
そいつと少したわいのない話をしてたのだが、バンドの話になった。すると、Aは少し前からなぜか連絡がつかないらしい。
そいつは、俺がその事を知ってると思い、元々Aと仲の良い俺を気遣って、敢えて口を濁していたみたいだが、俺はその時初めて知った。最後に俺が会ってから、確か4日後くらいに、Aは行方不明になっていた。
俺は突然怖くなった。少し体が震えていたし、変なギトギトした汗が出る感じがした。結局バンドメンバーにあの話しはできずに、連絡先だけ交換してその日は解散した。
なんか言い知れぬ恐怖感と、現状を自分で確認したくて、居てもたっても居られなくなった俺は、その日の帰りにAのマンションの前まで行った。
俺はAの家の前を通ったが、家の明かりは点いていた。しかし、Aの部屋の明かりだけは消えていた。
さすがにここまで来ると、俺は怖いってよりヤバいと思い、本当に切り詰められたような状態だったのを覚えてる。
Aの家族にも言わないといけないが、なんて言ったらいいか分からない。母親は5年前に亡くなっており、弟はいくら問いただしても「その頃の記憶が無い」という。
Aの母親に話そうとも、直接『止まってた』現場にはいなかったし、Aは『止まってた』話をしてなかったように思える…。そして行方不明の今、その事は言いづらかった。
何度も自分で検証したいとは思ったが、Aは二度目でおかしくなってしまった。そして俺は、そこに行く勇気がなかった。友達に話そうとも思ったが、追い詰められた俺は、結局誰にも話せなかった。
結局手段を思いつかなかった俺は、毎日Aに電話かけたりメールを送った。返信は無いが、メールは送れた。
取り敢えず1ヶ月以上、電話は時間帯を変えたりして毎日かけていた。けど、Aからはずっと返信も着信も来なかった。
だんだん無駄なのかもしれないと思っていたが、責任を感じてた俺は、たまにメールをしたりしていた。
それから半年、Aの母親や妹と話す事もあったが、やはりあの話はできなかった。そしてAの家族も、俺に関係ある事だと思っていなかったらしい。
俺は責任から、携帯のアドレスをずっと変えずにいた。すると、Aがいなくなってから半年たった頃、突然Aから着信があった。
気付くのが遅かった。着信があったのは2時間くらい前。古い携帯で単純なアドレスだったので、出会い系メールやワンギリもあって、基本的に着信は無視していた。Aに電話をかけると、Aはでなかった。
それから2日間、一日に何度も電話をし続けた。すると、2日目に遂にAが出た。
Aはまず「今まで出られなくてすまん。いま遠くの親戚の家で暮らしている」と言った。そしてAは、「あの時はすまん。本当に恐ろしい事があった」と話し出した。
Aの話をまとめると、まず幼い頃の話からしなくてはならないのだが…。
※
Aは、弟を振り切って物陰に隠れようとしていた。そして気付いたら夜だった。母に手を引っ張られていた。その時は、本当に記憶がなかったらしい。
それで家に帰ったのだが、その頃から変な夢を見るようになったらしい。まず、自分は洞窟に入って行く。
最初は周りが見えるのだが、奥に進むと真っ暗闇になってるらしい。そして、気付いたら目の前に壁がある。どうやら洞窟は、そこで行き止まりらしい。
すると、足元から風が吹いている。よく見ると足元に穴があり、奥の方に不思議に光るキノコがあるらしい。
そして、そのキノコを覗き込むと洞窟は消え、自分の周りを、キラキラとラメの様に光る黒い影が、バレリーナのように躍る。
まとめると、こういう夢だったと記憶してるのだが、これで合ってるか判らない。
そして、その半年前の方の話になる。Aはライブの帰り道、俺と一緒にあの場所に行く。
場所はなんとなくしか覚えていなかったらしいが、その場所に行った瞬間、前回と同じ感じに時間が止まっていた。
しかし、今回は何か違ったらしい。なんと、自分の周りを、夢で見たのと同じように、黒い影がくるくる、ラメのようなものを撒き散らしながら回転していた。
前回は止まった事すら気付いてなくて、今回は止まった事には気付いてたらしい。
それでAは怖くなり、最初は動けなかったんだが、段々訳が分からなくなってしまっていたらしい。
取り敢えずがむしゃらに動こうとしても、体が全く動かない。この辺の描写はあまり覚えてないが、取り敢えずヤバイと思って必死だったらしい。それで、気付くと周りが明るくなっていた。
ついに体が動いた。気が狂いそうになりながらも、Aは俺の手を取って必死に逃げた。そして墓で迷い、疲れ切ったAは嘔吐した。
それからは前に書いた通り。一週間は恐怖で食事も喉を通らず、何もできなかったらしい。
そして、この地を離れなくてはいけないと思ったAは、取り敢えず親戚の家に行くことにしたらしい。そこは行動力があるAらしいと思った。
何日か親には言ってなかったが、親戚が連絡を入れたみたいだ。そして、親戚から家族に連絡が行ったのを知って、家族に「恋愛でいざこざがあった。この事は他人に話さないで欲しい」と伝えたみたいだ。
Aは、たまに夢でみるキラキラの影と、昔あった『時が止まった』の話は、全く関係ないものと思っていたらしい。接点すら考えなかったみたいだ。
そして、俺から連絡が来てもただ怖かったのだが、落ち着いてみると俺の事も心配になった。しかも最近は、俺からあまり連絡が来なくなり、電話したらしい。
すまん。続きはないというより、進行形なのかもしれない。取り敢えずこれで終わりだ。
俺はもう一度検証してみたいが、Aの事もある。行くべきなのか…。取り敢えず、Aと連絡を取ったのはこの後一度だけだった。