俺の爺ちゃんは猟師なんだけど、昔その爺ちゃんに付いて行って体験した実話。
田舎の爺ちゃんの所に遊びに行くと、爺ちゃんは必ず俺を猟に連れて行ってくれた。
本命は猪なんだけど、タヌキや鳥も撃ってた。
その日も爺ちゃんは鉄砲を肩に背負って、俺と山道を歩きながら、
「今日はうんまいボタン鍋くわしちゃるからの!」
と言っていた(実際撃ったばかりの猪は食わないが)。
そのうち、何か動物がいるような物音がした。ガサガサって感じで。
俺は危ないからすぐ爺ちゃんの後ろに隠れるように言われて、すぐ爺ちゃんの後ろに回って見てたんだけど、爺ちゃんは一向に撃つ気配がない。
いつもなら俺を放っておくくらいの勢いで
「待てー!」
と行ってしまうのだが、鉄砲を中途半端に構えて固まってしまっている。
俺はその頃は背が低くて茂みの向こうにいる動物であろうものはよく見えなかった。
俺は気になって爺ちゃんに
「何?猪?タヌキ?」
って聞いた。
しかし、爺ちゃんはしばらく黙っていて、茂みの向こうをじっ…と見ていた。
「あれは…」
と爺ちゃんが口を開いた瞬間、急に茂みがガサガサと音を立てた。
「やめれ!」
と言い放ち、爺ちゃんはその茂みに一回発砲した。
そして俺を抱えて猛ダッシュで逃げ出した。
※
俺は何がなんだか分からず、ひたすら怖くて今にも泣きそうになっていたが、爺ちゃんが撃ったのは何なのか気になり後ろを振り返った。
すると、遠目に毛のない赤い猿のような動物がこちらに向かって走っている。
爺ちゃんは俺を抱えて走りながらも鉄砲に必死で弾を込めていた。
弾を込め終わると爺ちゃんは俺を抱えたまま振り向きざまに発砲した。
すぐ隣で発砲されたので、俺は耳が「キーン」ってなって、色んな音が遠く聞こえた。
爺ちゃんは走りながらまた新しい弾を込めている。俺は怖くてもう振り返ることはできなかった。
後ろで
「ケタタタタ!ケタタタタタタ!」
というその動物の鳴き声らしい声が聞こえ、爺ちゃんが小声で
「助けてくれ…助けてくれ…この子だけでも…」
と呟いていた。
山を降り切っても爺ちゃんは止まらなかった。俺を抱えてひたすら家まで走った。
家に着くなり、爺ちゃんは婆ちゃんに
「ヨウコウじゃ!!」
と叫んだ。
婆ちゃんは真っ青な顔で台所に飛んで行き、塩と酒を持って来て、俺と爺ちゃんにまるで力士が塩を撒くように塩をかけ、優勝した球団がビールかけをやっているみたいに酒を頭から浴びせた。
その後、それについて爺ちゃんも婆ちゃんも何も話してくれなかった。
間もなくして爺ちゃんは亡くなってしまい、その時婆ちゃんが俺に「ヨウコウ」について話してくれた。
「○○ちゃんが見たのはのー、あれはいわば山の神さんなんよ。
わしらにとってええ神さんじゃないがの。爺ちゃんはあんたのかわりに死んだんじゃ。
お前は頼むから幸せに生きておくれよ」
爺ちゃんが死んでから、婆ちゃんも後を追うように亡くなってしまい、俺は20代後半でピンピンしている。
俺が見たのは、村で言い伝えられる妖怪の類だったのかもしれないけど、今でも親戚の人にこの話をするとしかめっ面をされる。
福井県の某村の話。