私の母の実家は一度、家が全焼してしまう大火事に遭いました。
当時住んでいたのは、寝たきりのおばあちゃんと、母の姉妹6人だけ。
皆が寝付いて暫く経った頃、お風呂を沸かすために使った薪の残り火が原因で出火。
寝ていたところを慌てて逃げたそうです。
外に逃げてみると、寝たきりのおばあちゃんがまだ中に居るのが判りました。
しかし既に家全体が炎に囲まれていて、とても助けに行ける状態ではなく、呆然と家を見ていました。
すると、寝たきりのはずのおばあちゃんが炎の中から飛び出して来たそうです。
※
家は焼けてしまいましたが、
「取り敢えず全員無事で良かった」
と話していると、おばあちゃんが飼っている牛の心配をし始めたのです。
牛小屋は燃えてしまっていて確認できる状態ではなかったのですが、母達は気休めに
「大丈夫」
と言ったそうです。
するとおばあちゃんは、
「ミチ(牛の名前)が炎の中から私を呼んで、背負って逃がしてくれたんよ」
と話し始めたそうです。
おばあちゃん曰く、寝ているとミチの鳴く声が聞こえて目が覚め、火事に気付いたものの歩けずに困っていると、ミチが歩いて来て、背中に乗って炎の中を歩いて来たと言うのです。
しかし、母達はおばあちゃんが牛の背中に乗って来たところは見ていません。
とは言え、おばあちゃんは寝たきりで、歩ける状態ではなかったのです。
火が消されて焼け跡を見てみると、家の傍にミチの姿はありません。
牛小屋は半分ほど焼けており、ミチだけが火傷を負って牛小屋で死んでしまっていました。
※
ミチが抜け出して助けてくれたのか、おばあちゃんがミチの魂を見て歩き出したのかは分かりません。
ただおばあちゃんは、ミチのおかげで命が救われたと思ったそうです。