昔テレビで見た話。
今から20年程前、香川県民の水瓶とも言える満濃池が干ばつで干上がった。
満濃池は、かの弘法大師が築いた溜め池で、近隣に幾つもある灌漑用池が干上がる事があっても、まず干上がる事がなかった池だ。
そして干上がった満濃池から、毛布か何かに包まれた白骨死体が見つかった。
殺人事件として捜査が始まったが、一向に手掛かりが無く迷宮入りかと思われる事件となった。
この頃、地元では、
「仏さんが見つけて欲しかったんや」
「いや、満濃池に遺体を放ったんで弘法大師さんがお怒りになったんや」
などと囁かれたとの事だ。
※
その頃から、満濃池周辺では今までとは比べものにならないほどに幽霊の目撃談が増えた。
いずれも似た特徴を持つ女性の目撃談だった。
一方、捜査本部の方では最後の手段として、復顔(頭蓋骨に粘土を付けて生前の顔を復元する事)を試みる事になった。
その復顔を新聞に掲載したところ、岡山に住む女性から行方不明になっている自分の姉にそっくりだとの連絡が入った。
その行方不明の女性の足跡を追いかけていた刑事が、松山のスナックで働いていた事を突き止め、スナックの店主に復顔による顔を見せた。
すると間違いなくそこで働いていた女にそっくりで、いつからか行方が知れなくなった事、そして当時男と一緒に暮らしていた事を証言した。
ところが、その男の行方を追い始めてからすぐに、憔悴し切った顔をしてその男が自首して来たのだ。
聞くと、警察が自分の周辺を調べ始めた事が判ってすぐに逃亡を企てたが、その頃から自分が殺害した女が毎晩のように枕元に立って寝る事ができない、との事だった。
こうしてあれよあれよという間に迷宮入りと思われた事件が解決した。
しかし、その直後に讃岐地方に大雨が降り、それまで干上がり続けた満濃池はあっと言う間に元のように満面に水を湛えるようになった。
この雨を『弘法大師の涙雨』と呼んだ、というお話。