もう10年以上前、俺が中学校の頃の話です。
当時はしょっちゅう同じ夢を見ていまして。
左右が田んぼの長い田舎道を、一人で歩いているんですよ。
すると向こうの方から和服の女の人が、小さな男の子の手を引いて歩いて来る。
そしてその人と擦れ違ってから少し歩くと目が覚める。
まあ、不気味というより意味不明な夢で、当然女の人にも男の子にも見覚えなどないんですけどね。
※
それで、その夢の話を友達にしたのね。こんな夢見るんだ、と。
そしたらそいつが「俺も同じ夢を見る」と言う。意味不明度は急上昇ですよ。
何で? 何で同じ夢?
そいつとは中学に入ってからの知り合いだし、魂の兄弟とでも言う訳?
そいつは「次に同じ夢を見たら俺、女の人に話し掛けてみる」と言う。
面白そうだから俺も「やってみやってみ」なんて気楽に言っていたんだけどさ…。
※
そしたらその夜、ちょうどその夢を見たのよ。
『あー、あいつ女の人に声掛けるんだなー』などと思いながら、俺はいつも通り女の人と擦れ違ったのね。
そしたらいつも無言で通り過ぎるのに、女の人が「やっと見つけた」と呟いたの。
その瞬間に背中がゾワッとしたね。
『あ、やばい。何か知らんけどやっちまった!』と思った。
※
目が覚めた俺は友達のことが心配になったけど、そいつの家の電話番号も知らないし、凄くドキドキしながら学校へ行ったら、まあよくある話で……失踪しちゃっていました。
聞いた話では、夜中にバタバタと家を出て行ったらしい。
もちろん家出ということでうやむやになったんだけど、それから5年経った頃、ひょこりそいつが家に帰って来たんですよ。
何でも、女の人と男の子と田舎の一軒家で面白おかしく遊んで暮らしていたらしいです。
それでふと気が付いたら家の近くの公園に居たって。
まあ、神隠しというやつなんでしょうが…。
※
取り敢えずそいつは今も元気で、きちんと働いています。
空白の5年間は謎のままですが。
ちなみに、俺はそいつが失踪してからあの夢は見なくなりました。
女の人と男の子が誰なのかも判らず仕舞いです。