小さい頃から、寂しかったり悲しかったり困ったりすると、何だか良い香りに包まれるような気がしていた。
場所や季節が違っても、大勢の中に居る時も一人きりで居る時もいつも同じ香りだから、花や香水などではないことは確かだった。
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私が二十歳になった時、母の実家が改築される事になった。
母の実家の庭には小さな蔵があり、お盆のお墓参りで寄った時に、伯母から
「もう殆ど整理したから何も大した物は残っていないけど、何か良いものがあれば自由に持って行って良いよ」
と言われ、久しぶりに蔵に入った。
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中に入ると、祖母がお嫁に来た時に持参した長持ちがまだあって、よく従兄たちと隠れんぼをして中に入り込んでいた事を思い出した。
懐かしく思い出しながらその長持ちを開けた。あの頃はまだ洋服などが詰まっていた長持ちの中も、既に整理されたのかもう空だった。
長持ちは四つあって、一番奥に桐のかなり立派なものがあり、小さい頃、その長持ちだけは触ってはいけないと言われていた事を思い出した。
流石に今は良いだろうとその長持ちを開けた途端、私は良い香りに包まれた。
伯母と母に聞くと、その長持ちは私が三歳の時に亡くなった私の祖母に当たる人が嫁入り道具に持って来た長持ちで、その中には良い香りのお香を焚き込んだ着物が沢山入れられていたという事だった。
祖母にとって孫は男の子ばかりだったので、私が生まれた時に「この着物は大きくなったこの子にあげよう」と嬉しそうに母や伯母に話していたと、その時初めて聞いた。
おばあちゃんだったんだね……。