子供の頃、近くに廃墟があった。
その家は川沿いにあって、庭には井戸もある。
しかも田舎だから灯りも少ないしで、夜になるととても不気味。
必然的にその家は、幽霊が出る家として校区内では有名だった。
学校からは倒壊の恐れもあり危ないので立ち入り禁止とされていた。
私も好奇心旺盛な年頃だったので行ってみたい気持ちはあったんだけど、後でバレて怒られるのも嫌だったので行くことはなかった。
それでも行く奴はいる訳で、「幽霊を見た」「井戸から声がした」など、よくある怖い話を得意気に話していた。
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そんな中、探検に行ったグループの一つが、その廃墟を「ロアニの家」と呼び始めた。
その名称は学年中に広まり、うちの学年は皆そう呼んでいた。
しかし、誰に聞いても名前の由来が判らない。
結局はロアニさんが住んでいた家というよく解らない結論に落ち着いた。
それからすぐ後に廃墟は取り壊された。理由が何だったのかは判らない。
その後は「ロアニの家」の話は消滅して行った。小学生だからね、すぐ忘れる。
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数ヶ月後、食卓を囲んでいると中学生の兄が、
「そういや、あそこの廃墟取り壊されたんだってな」
「もう三ヶ月くらい前やで」
「そっか、最近あそこら辺通ってなかったからなぁ。そういや○○、あそこなんて呼ばれてたか知ってる?」
「え、名前なんかあるん? ウチらは勝手に『ロアニの家』って呼んでたけど」
「へぇ、なるほどな。俺らはクチアニの家って聞いたわ」
何でも家の一番奥の部屋に大きな赤文字で「クチアニ」と書いてあるらしい。
「ロアニにクチアニか、なるほど。見つけたんが小学生で良かったんかもな」
そう言って兄は笑っていた。
その後、言葉の意味が解って、廃墟に行かなくて良かったと感じた。
まあ、結局その廃墟が本当に曰く付きだったかを調べる術はもうないけれど。
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編注
口兄