これは父から聞いた話です。
父が子供の頃は、学校から帰ると直ぐさま川にサワガニ捕りに出掛けていたそうです。
その日も一人で川へサワガニ捕りに出かけました。季節は夏で、蒸し蒸ししていました。
最初は竿に糸を付け、おかずのイカを括り付けて捕まえていたのですが、暑くて我慢できなくなった父は川に入りながら捕まえていました。
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空も赤く染まり始め、そろそろ帰るかと服を着ていると、おじさんが通り掛かり話しかけてきたそうです。
「坊主…川に入っちまったのか…」
父は頷くと、おじさんは話し出しました。
「あのな、坊主…この川でな、よく子供が殺されたんだとよ…」
父は驚きました。
「そんな話、聞いた事がない」
とおじさんに言うと、
「そりゃそうさ。おじさんが当人で、ずっと隠し通してきたからな…」
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父は逃げようとしなかったそうです。
父にその理由を聞くと、そのおじさんからは全く殺気が感じらず、穏やかな空気しか感じ取れなかったかららしいです。
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そのおじさんに父はこう聞いたそうです。
「おじさんは、もう人を殺すことをやめたの?」
「何故だい…」
「だって、今のおじさんは恐くないよ?」
そのおじさんは、自慢気にこう言いました。
「あー…子供を安心させる達人だからな。はは…」
父は咄嗟に逃げたそうです。
親にそのことを話し、警察に報告しました。
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今でもそのおじさんは捕まっていないそうです。
父は「逃げ切れて本当に良かった」と言いました。
もし殺されていたら、私は今いなかっただろう…。