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最後の客と折詰め

折り詰め

近所の中華屋でラーメンを食べた時のことだ。

会計をしようとすると、店主が静かに言った。

「今日はお代はいただきません。実は今日で店を畳むんです。あなたが最後のお客さんですよ。ひいきにしてくれてありがとうございました。これ、おみやげに」

そう言って折詰めを二つ渡された。

俺は驚きながらも、「残念です。お疲れさまでした。おみやげ、ありがたく頂戴します」と挨拶して店を出た。

折詰めを開けてみると、餃子や春巻き、唐揚げなどがぎっしりと詰まっていた。一人では到底食べきれないほどの量だ。

思わず「得しちゃったな」と楽しくなり、帰り道に友人へ電話した。

「今うちに来たら、中華のオードブルが山ほど食えるぞ」

事情を話すと、友人は妙なことを言い出した。

「その折詰め、中身は食べたか?」

「いや、まだだよ」

「いいか、絶対に食うな。それからアパートにも戻るな。駅前のコンビニに行け。俺が迎えに行く」

「え? どういうことだよ」

「説明は後だ。人のいるところが安全だ。着いたら連絡してくれ」

言われるがまま、俺はコンビニへ向かった。

到着して友人に電話をかけると、彼は「すぐに行く。後をつけられていないか?」と念を押した。

「いや…でもお前、大丈夫か?」

「それはこっちの台詞だ」

そこで通話は途切れた。以後、友人と連絡が取れなくなった。

小一時間待っても、迎えに来ることはなかった。

「絶対にアパートに戻るな」という言葉が頭に残り、俺はネットカフェに避難して朝を迎え、そのまま実家に帰った。

折詰めはコンビニのゴミ箱に捨てた。

数週間後、アパートに戻った俺は隣人に声をかけられた。

「もう大丈夫なのか?」

「え? 何がですか?」

隣人は驚いたように話し始めた。

「夜中にガラの悪い男が、お前の部屋をガンガン蹴ってたんだ。借金取りかと思ったよ。八月の終わりと、つい最近もな。しつこかったから警察呼ぶぞって怒鳴ったら引き上げたが……もしかして、知らなかったのか?」

俺は半笑いで頷き、即座にアパートを出た。

以来、カプセルホテルを転々とし、再び実家に戻ることもできずにいた。

さらに数週間後。

俺が必死に連絡を取ろうとしていた友人は、自宅の車庫で首を吊っていたことが判明した。

遺書はなかった。だが、手に握られていた携帯電話には発信履歴が残されていた。

そこには「○○○」という名前が延々と並んでいた。

そして、着信履歴には俺の名前。

つまり、俺と通話した直後、友人は「○○○」に繰り返し電話を掛け続け、そのまま自ら命を絶ったのだ。

○○○とは――俺に折詰めを渡したあの中華屋の名前。

友人は何を伝えたかったのか。なぜあの晩、彼は「絶対アパートに戻るな」と言ったのか。

もう誰にも確かめることはできない。

俺は学校を辞め、アパートも引き払った。

ただひとつ確信している。あの折詰めを口にしていたら、今頃ここに俺はいなかった。

そして、この街に長居してはいけない――。

そう直感し、逃げるように去った。

さようなら。

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