小学低学年の頃、両親の用事のため、俺は知り合いのおばちゃん家に一晩預けられた。
そこの家は柴犬を飼っていて、俺は一日目の暇潰しにその犬を連れて散歩に出かけた。
土地感のない所をやたらに歩き回り、ついには迷子になってしまった。
当時シャイだった俺は、他人に話し掛けることもできず、うろうろしているうちに夕暮れになってしまった。
そしてある場所を通り掛かった時、急に犬が足を踏ん張って動かなくなってしまった。
立ち往生していた場所の右手に、二軒繋がりのような形の空家があった。
当時、昆虫集めに凝っていた俺は、カマキリでもいないかと思い、その家の草の生い茂った庭に入り込んだ。
暫く草を掻き分けているうちに暗くなってきて、これはやばいと顔を上げた。
空家の殆どの雨戸は閉まっていたのだが、俺と玄関を挟んで向こう側にある雨戸だけが少し開いていた。
そして、そこから女の人が顔を突き出しているのが見えた。
顔つきは覚えていないが、両目を閉じたまま顔を左右に振っていたと思う。
とにかく気持ち悪い動きだった。
俺は声も出ないまま腰を抜かし、一目散に空家から飛び出した。
※
それからどのようにしておばちゃん家まで辿り着いたのかは憶えていない。
おばちゃんに半泣きで空家の女のことを言ったら、おばちゃんは急に怒り出した。
そして何故は判らないが、すぐさま頭をバリカンで丸坊主にされた。
その後、知らないおじさんを連れて来て、呪文のようなものを聴かされた。
出掛けていたはずの両親も急遽呼び出され、結構な大事になった。
それ以来、おばちゃん家には一度も行っていない。
あれは一体、何だったのだろう。