ある夜のことでした。
会社員のAさんは残業で遅くなったのでタクシーを拾いました。
タクシーの中では、運転手さんと色々な話で盛り上がっていました。
そして、タクシーは山の中の暗い道を通りかかりました。
脇はうっそうとした森になっており、他の車は見当たりませんでした。
その時、タクシーの運転手は人が変わったように暗い顔をしてこう言いました。
「いいですか、ここでは絶対に車の窓側を見てはいけません。絶対ですよ…」
Aさんは豹変した運転手に驚き「はい…」としか言えませんでした。
尚もタクシーは森の中を走ります。
しかし、おかしいなと思ったAさんはこう訊きました。
「なぜ見てはいけないのですか?」
でも、運転手さんは何も言いません。
Aさんは段々怖くなってきました。
その時でした。
見るなと言われていた窓側から「う~う~」と言う声が聞こえます。
なんだと思ってAさんは窓側を見てしまいました。
すると、窓にぬ~っと怒りを浮かべた男の形相が現われ、Aさんの顔を見てこう言ったそうです。
「てめぇじゃねぇ!」
そこからAさんの記憶はないそうです。
何年か前、その山道で轢き逃げ事故があり、男の方が亡くなられ、犯人は捕まっていないそうです。
そして、その男の方は毎晩毎晩そこを通る車を調べ、自分を轢いた犯人を探しているそうです。