友達と山にドライブに行った時、深夜でしかも霧がかっていたので、後続車もないしチンタラ走ってたんだ。
俺たちは頂上付近の展望台を目指していた。
すると、かなりのスピードで俺たちに接近してくる後続車。
後ろにいた友人が「ベンツや!スモーク張ってるしやばそう!」と。
運転手だった俺は、停車するにもこの勢いじゃ追突される…!と思い、アクセルを踏んだ。
まだまだベッタリとケツに張り付いてくるベンツ。
霧などお構い無しに勘だけを頼りに車を走らせていると、ようやく展望台が見えてきた。
俺は展望台の駐車スペースにスっと車を入れた。
「これで前に行かせられる…」とホッとしていられたのも束の間。
ベンツも同じように停車した。
しかも出入り口付近に停車しているので、逃げる事も出来ない。
俺たちは恐怖のあまり車内で黙る他なかった。
そして、ベンツからいかにもな風貌の男が二人降りて俺たちに近づいて来た。
「コンコン」と窓を叩く細身でメガネの男。
パリっとしたスーツを着て、清潔感もあるがやはり独特のオーラは消せていない。
俺は窓を10センチほど開けた。
「こんな時間に何をしとるんや?」と聞かれ、
「ここで夜景を見ようと思って…」と俺が答えると、もう一人の体格の良いヤクザ風の男が
「男ばっかりで夜景かいな? 寂しいのう!」と笑った。
「煽ってすまんかったな。兄ちゃんらもええ車乗っとるから、こっちのモンか思ってのう。勘違いや」
俺たちは一気に安心した。どうやらこれ以上怖い思いはしなくてすみそうだと思った。
※
その後、自販機でジュースを奢ってもらい、タバコを吸いながらしばらく談笑した。
100%ヤクザだとは思うが、普通のオジサンみたいな感じもした。
「ほな、ワシら用事があるから行くわ」と細身の男。
俺たちは礼を行って2人が車に乗り込むのを見送った。
細身の男が前、体格のいい方が後部のドアを開けてそれぞれ車に乗り込んだ。
男たちのベンツはエンジンをかけたまま暫く動かなかったので、その間俺たちも固まっていた。
3分後くらいに「ブオーン!」と勢い良く登りの方へ消えて行った。
展望台より上に行っても、殆ど整備されていない獣道があるだけなのにと少し疑問に思ったが、みんな安心して「マジ怖かったー!」「洒落ならんわ!」とか安堵の表情で言っていた。
でも、その中で、友人のAだけまだ暗い表情をしている。
俺は「どうしたん? 大丈夫か?」とAに尋ねた。
するとAは「俺、見てもうた気がする…。ゴツイ方が後ろのドア開けた時に、手ぬぐいみたいなもので口を塞がれてる人が見えた…」
俺たちは考えたくはなかったが「山でヤクザ=埋める」という嫌なセオリーを頭に浮かべた。
「はよ言えや!!」と他の友人が恐怖に満ちた表情で叫んだ。
俺たちは車に乗り込んで一目散に下山した。