
あれは、私が中学生の頃の出来事でした。
夜の塾を終え、星空を見上げながら、のんびりと自転車を漕いで家に帰っていました。
時刻は夜の十時を少し過ぎた頃だったと思います。
家まであと少しという場所で、前方に一台の自転車が見えました。
街灯も少ない細い道だったため、追い抜くことはできず、私はしばらくその後ろを走っていました。
すると突然、その自転車が大きな音を立てて倒れたのです。
慌てて近寄ると、髪の長い女性が道端に倒れていました。
うずくまるようにして呻いている様子でしたが、声をかけても返事がありません。
暗闇の中、ただその姿だけが不気味に映り、恐怖心に負けた私は――助けることもできず、そのまま家へと帰ってしまいました。
※
数日後、警察が家を訪ねてきました。
近所で殺人未遂事件が発生したとのことで、聞き込み調査に来たのだと言います。
話を聞くうちに私は胸がざわつきました。
刑事さんが語った「犯人の特徴」が――髪の長い女性、だったのです。
私は震える声で、あの日、自転車の前で見た出来事を話しました。
すると刑事さんは、表情を一変させ、強い口調で「詳しく話してほしい」と言いました。
私はその場で、あの夜の出来事を細部まで説明しました。
刑事さんが語ってくれた事件の内容は、私が体験した状況と恐ろしいほど一致していたのです。
あの時、もし私は彼女に手を差し伸べていたら――。
果たして助けることができたのか、それとも逆に命を狙われていたのか。
今もその想像が頭を離れず、思い出すたびに背筋が凍るのです。