小学校2年生の頃の話です。
私の家は山に囲まれた田舎にありました。学校からの帰り道は、人通りの少ない細い道を通るのが日課でした。
その日、いつものように下校していると、見知らぬおじさんとおばさんが突然、私に声をかけてきました。
「知らない人にはついて行ってはいけない」──親や先生から繰り返し言われていた言葉が頭をよぎりました。
しかし、その二人にはどこか普通とは違う、不思議な懐かしさを覚えました。初めて会うはずなのに、なぜか昔どこかで会ったことがあるような感覚があったのです。
しばらく見つめていると、おばさんが柔らかい声で言いました。
「地底の世界に遊びに行ってみないかな?」
私は、何と答えたのか正確には覚えていません。ただ、その言葉に強く惹かれ、気づけば二人の後をついて行っていました。
※
案内されたのは、学校の帰り道からそれほど離れていない場所でした。そこには見たこともない乗り物がありました。
リニアモーターカーのように空中を滑る電車のような乗り物──。
私はその先頭に座らされ、胸を高鳴らせながら乗り込みました。
やがて乗り物は、目の前に現れた大きなトンネルのような穴へと吸い込まれていきました。それは地球の内部へと続く道でした。
内部は巨大なアリの巣のようで、いくつものトンネルが縦横無尽に広がり、交差し、複雑な交通網を形作っていました。
宙に浮くように走る乗り物は、壁にぶつかることもなく、まるで見えないレールの上を進んでいるかのようでした。
トンネルの所々には信号のような光が灯っており、他にも同じような乗り物が音もなく走り抜けていきます。
私は生まれて初めて見る光景に、息を呑み、胸が高鳴るのを抑えきれませんでした。
やがて、あっという間に目的地へと到着しました。
※
そこは、私の田舎さえも霞んでしまうほど豊かな自然に溢れた世界でした。
停車場のような施設だけは人工的でしたが、壁は金色に輝き、まるで光そのものを放っているようでした。
外に出ると、周囲の植物はどれも異様に大きく、原始の地球のような風景が広がっていました。
私は、黄金に輝くトウモロコシを見て思わず立ちすくみました。夢と現実の境目が溶けていく感覚を覚えたのです。
そして、その世界で──私はひとりの「巨人」に出会いました。
人間とは思えぬほど大きく、全身から柔らかい光を放っていました。その姿は、子供の私にとって「神様」としか形容できない存在でした。
その人は私を見て、優しく頷きました。
「あなたのことは、生まれた時からずっと見てきました。これからも見守り続けます。あなたが大きくなった時、再び会うことになるでしょう。その時まで一生懸命に生きなさい」
私はその言葉を確かに聞いたはずですが、細かい内容は不思議と記憶が曖昧です。ただ、その言葉が温かく心に残ったのを今でも覚えています。
やがて私は元の場所へと送り返されました。
家に戻ると、興奮した私はすぐに両親に話をしました。しかし、信じてもらえるはずもなく、「また変な夢でも見たんだろう」と一笑に付されました。
胸の中の輝きは、誰にも分かってもらえないまま、静かに沈んでいきました。
※
翌日、昨日の場所を必死に探しました。しかし、どれだけ歩いてもあの乗り物は見つかりません。
「あれは夢だったのか…?」
自分でも分からなくなりました。
ただ、あの時、私を導いてくれたおばさんのことだけは、妙に心に残っていました。
──数年後、その人に再び出会うことになるとは、この時はまだ夢にも思っていませんでした。
※
小学校4年生の夏休みのことでした。
私たち家族(父、母、私、妹)は旅行に出かけました。行き先ははっきり覚えていませんが、長野県の高原だったと思います。
そこには自然公園のような場所があり、簡素なアトラクションもあって、まるで小さな遊園地のようでした。
父は妹と一緒に遊具で遊び、母は疲れたのかベンチに座って休んでいました。私はというと、一人で園内をぶらぶらと歩き回っていました。
※
その時です。
突然、胸の奥に「前触れ」のような感覚が走りました。まるで第六感に導かれるように、人通りの少ない道へと足が進んでいきます。
そこに──あの時の「おばさん」がいました。
地底へと連れて行ってくれた、あの女性です。
彼女の隣には、もう一人の女性が立っていました。
言葉で説明するのは難しいのですが、見た目は人間と変わらないはずなのに、周囲に漂う優しさや温かさが人間離れしていました。
私はその姿を見た瞬間、「この人は本当の母親だ」と直感しました。
胸の奥から込み上げる懐かしさで、涙があふれました。
※
二人は私に語りかけました。
「あなたは元々、地球人ではありません。私と同じ星で生きていました。しかし、地球が大きな変革期を迎えることになり、その使命のために地球に送られたのです」
「あなたは今の母親から生まれ、肉体は完全に地球人です。けれど魂は、地球人とは異なる存在なのです。あなたと同じように、多くの魂が今、地球へと送り込まれています」
小学生だった私に、その言葉の意味を理解するのは難しかったでしょう。けれど、「自分には特別な役割がある」という感覚だけは強く残りました。
それよりも何よりも、私は目の前の女性が「本当の母」であると感じたことがすべてでした。
「一緒に行きたい! 今の家族なんか捨ててもいい! だから連れて行って!」
私は子供らしい必死の気持ちで訴えました。
けれど、その女性はただ微笑み、首を横に振るだけでした。
「これからもあなたを近くで見守っています。次に会うのは、あなたがやるべきことを終えた時です。地球で生きることは大変でしょうが、どうか頑張ってください」
そう言い残し、二人の姿は静かに消えていきました。
※
私は泣きながら元の場所に戻りました。
さっきまで光に包まれていた人々と、現実の家族を比べてしまったのです。眩しさを失った世界が急に色あせて見え、子供心に強烈な寂しさを覚えました。
それ以来、私は自分の体験を誰にも話さなくなりました。
前回のことを両親に話しても信じてもらえなかったからです。
車に揺られながら、私は「自分は何者なのか」と考え続けました。
──あれは夢ではない。確かに自分は、あの人たちと出会ったのだ。
その思いだけは、今も揺らいでいません。
※
あれから時が経ちましたが、私は今でもあの時の言葉を心に抱いています。
「また会える日が来る」
その約束を胸に、私は日々を生きています。