夏休みに婆ちゃんの家に遊びに行き、従兄弟とその友達と遊んでいた時の話。
婆ちゃんの家の近くの山には「シンジラ様」という神様が居るらしく、月に一回シンジラ様にお供え物をしなければならない。
※
まず玄関の前にその家の家主の名前を紙に書き、その紙の上に食べ物を置いておく。
すると夜な夜なシンジラ様は山から降り、お供え物を貰いに来る。
そして次の日には食べ物が無くなっており、代わりにシンジラ様の歯が置いてある。
その歯には魔除けの力があり、その家を守ってくれるらしい。
※
ちょうど俺が遊びに来た日はシンジラ様にお供えする日で、みんなはシンジラ様の話で盛り上がっていた。
「○○(俺の事)もシンジラ様に食べ物をお供えしてあげて」と婆ちゃんに言われたので、来る時の車で食っていたお菓子の残りをお供えした。
※
その日の夜はシンジラ様を見てみたくてずっと起きていた。
そしたら夜中の3時半頃に人影が見えた。大きさは2メートル程だった。
その人影はゆっくりとお供えした食べ物に近付き、手に取って食べ始めた。
俺はもっと近くで見たいと思い、こっそり窓の方に近付いた。
そしてシンジラ様の姿を見てしまった。
体中に草や花が付いていたが、顔は暗くてよく見えなかった。
するとその人物は振り返ってこちらを見た。
そして目が合った。
その時に顔もよく見えた。
顔が木で出来ていて、口や目があるべきところには穴があるだけ。
それがシンジラ様だと解った直後、シンジラ様は食べていた物を置き、ぶつぶつ言いながら何処かへ行った。
※
俺はシンジラ様の姿を見て怖くなり、布団にくるまって怯えながら寝た。
すると夢にもシンジラ様が出てきた。
夢の中のシンジラ様は、何か凄く怒っているような感じだった。
※
目が覚めると朝で、何やら居間の方が騒がしかった。
何があったのか聞くと、シンジラ様の歯が置かれていなかったらしい。しかも町中、みんなの家で。
婆ちゃんが「もしかして○○、シンジラ様を見たの?」と聞くので、俺は怒られるかと思い「見てない」と嘘を吐いた。
すると婆ちゃんは、近所の人達と話しに行くと言い残して出掛けてしまった。
※
残された俺と俺の従兄弟は、従兄弟の友達と遊ぼうという事になり遊びに行った。
従兄弟の友達の家にもシンジラ様の歯が置かれていなかったらしい。
俺達は何をして遊ぶか悩んだ挙句、山に虫を採りに行くことになった。
※
食べかけのお菓子の残りをお供えしたのが悪かったのか、それとも姿を見てしまったのが良くなかったのか、事実は判らないままだ。