10年程前、父の田舎へ行きました。N県の山中です。夜は従兄弟達とお約束で怖い話になりました。
そろそろネタも尽きてきた従兄弟のお兄ちゃんに、私がもっともっととせがむと、「実はお隣の奥さんの話なんだけど…」と話そうとしました。
その途端その従兄弟の妹が、「お兄ちゃん、その話やめな!!」と怒鳴るのです。
こうなったら聞かない訳にはいきません。しぶしぶ話してくれた内容はこうでした。
この家の近くの山の中に、忘れられたようになぜか、お地蔵さんのようにお稲荷さん一匹ありました。
そのお稲荷さんに一番近くに家のあった隣の家の奥さんが、暇を見ては掃除をしたり、こまめに世話をしていたそうです。
そのうち情が移ったのか、「一匹ではかわいそうだ」と言い出し、ふもとの町の大きな稲荷神社に引き取ってもらうことになりました。
ところが同じ狐にも階級があるらしく、そのお稲荷さんはふもとの稲荷神社より階級が低いからという理由で、元あった場所に戻されてきました。
それを奥さんは「かわいそうだ、寂しいだろうに」と不憫がってよりいっそうお世話をしました。そのあたりからです、奥さんがおかしくなり始めたのは。
油揚げを尋常じゃないほど買い込んだり、一日中そこに入り浸ったりしてました。
さすがにおかしいと思ったご主人が病院に連れて行ったんですが異常なしで、その帰りに奥さんはふらりといなくなり、翌日山の中の景色のいい所でぼんやり座っているのが見つかりました。訳の分からないことをぶつぶつ言いながら。
で、今度はお坊さんを呼ぶことにしました。そう奥さんに伝えると、奥さんはまたいなくなりました。今度は近所の皆で探しても、警察に言っても見つかりませんでした。
ご主人はわらをもつかむ思いで霊媒師の人に相談したところ、
「奥さんは家の半径5キロ以内にいます。でも、何かピョンピョン飛ぶものに連れて行かれています。おそらく動物ではないかと」
と言われたそうです。
霊媒師の人にはお稲荷さんのことを言っていなかったのに。最近ではご主人の方も少しおかしくなってきて、お稲荷さんの世話をし始めたそうです。
うちのおばあちゃんが声をかけても、
「うちのヤツは狐さんが守ってくれているから」
と遠い目で言ったそうです。
その後どうなったかは知りませんが、お坊さんの着ている袈裟は狐や狸よけの意味もあるそうですね。あと、むやみやたらにお稲荷さんを拝むとついてくるそうです。