私が大学生の時に住んでいた部屋は、妙に雰囲気が悪かった。
日当たりは悪くないのに、何処となく薄暗いような感じがする。
いつもジメジメしていて、普段から気分が鬱々としたものだ。
当時は『建物が安物件だからかなあ』くらいに思っていたのだけれど…。
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同じ敷地内に住んでいる大家さんの息子は、心を酷く病んでいる方だった。
極度の妄想癖を抱え、病的な躁状態に陥ることもあった。
彼は僕が入居してから半年後に精神病院に入院した。
一年後、退院された時には見違えるほど回復していた。
すっかり常識人のような物腰で、話すこともまともだったし、外見も15歳は若返ったかのように見えた。
他人事ながら『良かったなあ』と思っていた。
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ところが恐ろしいことに、ほんの二日程で元の木阿弥になってしまった。
薬が切れたから? それにしても酷い変わり様だった。
彼は合い鍵を持っていたので、少し身の危険を感じることもあった。
夜中に突然ドアを開けて入って来ることもあり、その時は彼の『発明』についての話を長々と聞かされたりしたものです。
早く引っ越せば良かったのに、入居している時は何故かそこを離れてはいけない理由が次々と思いついてしまい、なかなか転居することができなかった。
今思えば不思議なのだけれど、結局二年半もそこに住み続けた。
路地の奥まった場所、それも行き止まり。生い茂る緑に建物は殆ど隠されていて、通行人からは見えない白い木造建築。
友人以外の不意の来客、セールスなどはただの一度も訪ねて来ることはありませんでした。