子供の頃、時々遊びに行っていた神社があった。
自宅から1キロほどの山の麓にある、小さな神社だった。
神社は大抵ひとけがなく、実に静かだった。
神社の横が小さな林になっていたのだが、その林の木のつるが上手い具合に垂れ下がっていて、ブランコのようになっているところがあった。
木のつるだから揺れる幅も狭いが、自然にできたブランコという漫画みたいな場所は、子供心にも面白さを感じる。
近所の子供はそれのために、時々神社に足を向けていた。
※
ある日、その場所に一人で出掛けた。
一人だった理由はもう思い出せない。多分、遊びに誘った子達が皆出掛けていたか、何かだったのだろう。
神社の境内はいつも通り、手入れはされていたがひとけはなかった。
横の林に入り、つるのブランコに向かおうとした時、妙なものが目に入った。
人の顔。妙に白い人の顔が、ブランコの少し手前にあった。
プールで仰向けになり、顔の部分だけ水面上に出している様子を思い浮かべて欲しい。
丁度そんな感じで、顔だけが仰向けに地面の上にあったのだ。
私は足を止め、その顔を眺めた。
お面だろうか? しかし作り物には見えなかった。
結構整った顔立ちだったと思う。女性なら美人だと言っても良いだろう。
その目は真っ直ぐ天を見つめている。
近付いて確かめたいという気持ちと、逃げたいという気持ちが拮抗して、私は動けなくなった。
しかし、私はすぐに脱兎のごとく逃げ出した。
目が不意にきょろっと動いて、私を見つめたからだ。
私はそれ以来、そこには行かなくなった。
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物理的に誰かが本当に埋まっていた、というのは考え難い。
地面は木の根が這い回っていて、非常に掘り難いはず。
本気でやるなら、数人がかりで掘って、体を埋める必要がある。
しかし何のため?
何かの撮影なら、小さな田舎町のこと、噂にならないはずがない。
悪戯や覗きなら、あまりに割に合わない。一日待って誰も来ないことも有り得るのだから。
しかし、何よりあの顔だ。
そこには苦労して埋まって、我慢して何かを待っている様子は全く感じられなかった。
ただ静かに天を眺めていた、不気味に綺麗な顔。
あれは埋まったのではなく、地面の下からぷかりと浮かんだのだとしか思えなかった。
※
数年前、約20年ぶりにそこを訪れた。
木のつるのブランコは垂れ下がって地面に達してしまい、もはやブランコではなくなっていた。