以前勤めていた会社での事。
その会社は創業社長が一代で大きくした会社で、バブルの頃はかなり羽振りも良かった。
しかし所詮は個人企業。
社長も元々商売の才覚があった人ではなく、好景気に踊らされて失敗をやらかした。
株投資の失敗、多角化し過ぎた事業の赤字、過剰過ぎた設備投資…。
その結果、莫大な借金を苦に、社長は自殺してしまいました。
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社長の死後、私も含めて全社員が必死になって会社を立て直した。
そんな事になってしまっても、社長は人徳があった人。皆が社長の会社を潰すものかと本当に頑張った。
後年、バックアップを申し出てくれた会社もあり、その会社の子会社という形でどうにか会社は生き延びる事ができた。
けれど、やはり社長は未練があったようで。『社長室』には妙な噂が絶えなかった。
普通の部屋の筈なのにいつも薄暗く、ひんやりしていて、中に居ると視線を感じる。
社長が生きていた頃にはそんな事は無かったのに。
親会社から出向して来た幹部が社長としてその部屋に入るも、僅か一ヶ月で社長室を別個に用意したなんてこともあった(何があったかは絶対に教えてくれませんでした)。
そして社内では『人影を見た』とか、ありがちと言えばありがちな現象のオンパレード。
数回、除霊まで行いましたが、効果はありませんでした。
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それから更に数年後、私は出産を機に退社する事に。
周りを見渡すと、いつのまにか『頑張った社員』達はもう私しか居なくなっていました。
つまり、社長を知る最後の社員。
退社するその日、私は薄暗い廃墟のようになった社長室へ行き、
「今までお世話になりました。社長もできればお休みください」
と目を瞑り、合掌。
そしてふと目を開けると…点けていなかったはずの部屋の電気が点いており、目の前の社長のデスクには生前の社長のシルエットのようなもやが…。
声も出ないままそのもやを凝視していると、もやはお辞儀をするように変形し、散って行き、電気も消えました。
それからもう涙が止まらず、その後の私の送別会でもずっと泣いていました。
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先日、用事があって久々に会社を訪ねてみました。
やはりと言うか、こっそり覗いた社長室は以前の暗い雰囲気はなく、明るい、いかにも『仕事のできる幹部の部屋』に見えました。
「もう何も起きない?」と元同僚に聞いたところ、
「時々親会社の人が、軽くおどかされるくらいです」との返事。
親会社の人には悪いのですが、ちょっと笑ってしまいました。
社長、遊んでないで早く完全に成仏してもらいたいものです…。