ここでの俺は神楽と名乗ることにする。
断っておくが、本名ではない。
今はサラリーマンをしているが、少し前までは神楽斎という名で霊能者をしていたからだ。
雑誌にも2度ほど紹介されたことがあるから、もしかしたらここで知っている人もいるかもしれない。
そんな俺だが、いわゆる『霊感』を持っているので、小さい頃から霊体験は数多くある。
俺自身、命を落としそうになったものもあるが、そういう霊体験を一つずつ紹介していきたいと思って書いている。
ただ、いきなり長丁場な話を思い出しながら書くと挫折しそうなので、まずは短めな霊体験から書いていく。
※
この話は、俺の体験談だ。
俺が幼稚園に入る前、いわゆる公共団地に住んでいた。
団地の近くにはいくつか公園があり、団地住民の子供はよくそこで遊んだものだ。
俺もその一人。
一番端にある公園が好きでよくそこに行ったものだった。
水飲み場と砂場とベンチしかないので、子供は滅多に来ない。
だから、俺は好きだった。
霊感を持っているがゆえに、周りから薄気味悪がられていたのだ。
「あそこに○○がいる」
と指差した方向に何も見えなければ近寄りたくなくなるのは当然のことだ。
自然と俺は一人で遊ぶようになって行った。
この公園で、俺のお気に入りといえば砂場だった。
砂を盛って山を作り、底を掘ってトンネルを作る。
その後は赤いミニバケツに水を入れ、トンネルに流し込む。
こんなことを毎日飽きもせずやっていた。
※
ある日、俺が行くと見たことない女の子がベンチに腰かけていた。
とても可愛らしい。どことなく俺に似ているのは気のせいだろうか。
周りを見ると親はいない。ということは団地の子だろう。
「お名前なんてゆーの?」
「カナ」
「一緒に遊ぶ?」
「うん」
こんな会話だったと思う。
俺らはいろんな話をしながらトンネルを掘って遊んだが、残念なことに会話の内容までは思い出せない。
そうこうしているうちに、辺りは暗くなり始め、夕日が沈みかけていた。
「もう帰らなきゃ。お母さんに怒られる」
「カナは…もうちょっといる」
「団地に住んでるの?」
「うん」
「じゃあこれ貸してあげるよ。明日また来るから返して」
「わかった」
俺は黄色の柄が付いた緑色のシャベルと赤いバケツを貸してあげた。
団地に帰ると、お母さんに友達ができたことを報告した。
「あら、よかったわねー。どこの子?」
「うーん、わかんない。だけど団地に住んでてカナちゃんって言うんだって」
「ふーん。また遊べるといいねー」
その翌日、昼頃に公園に行くとカナちゃんはベンチに座っていた。
「こんにちは」
と互いに挨拶を交わし、また砂遊び。
遊びの時間は不思議である。あっという間に時間が過ぎてしまう。
夕方になった時に買い物から帰宅する母を見かけた。
この公園の先には商店街に続く道があるのだ。
「お母さーん」
俺は母に駆け寄り、今までにない巨大富士山とタワーにトンネルを織り交ぜた海上都市を見せたかった。
「あら、神楽。今日はカナちゃんとは遊んでないの?」
「えっ!?カナちゃんと遊んでいるよ。今までずっと作って…」
振り返るとカナちゃんはいなかった。
「あれ? おかしいな。カナちゃん帰っちゃったのかな…隠れているのかも!」
と茂みを探してみたが、見当たらない。
「…もう遅いから帰りましょ、神楽。夜ご飯のお手伝いして」
「えーやだー」
その日の夜、俺は原因不明の高熱にうなされた。
40度を超えていたらしい。
うなされながら、
「カナちゃん…カナちゃん…」
と名前を呼び続け苦しむ俺。
そんな時、父と母は俺の体の上に白い球体が浮かんでいたのが見えたらしい。
父と母は必死に叫んでいた。
「神楽を連れて行かないで!お願い!」
「香奈のこと忘れたことなんて一度もない!頼む!神楽だけは…」
俺には姉がいたらしいのだ。初めての子供で女の子が産まれると分かってから、既に『香奈』と名前を付けてお腹に呼びかけていたそうだ。俺も驚いたが。
いよいよ出産となったが、姉は死産だったらしい。
しばらくは母がとても落ち込んでしまい、なんとか元気を取り戻した時に俺が産まれたというわけ。
道理で俺は大事にされてた感があるな、と感じた。
次の日の夕飯、俺は食欲も出てきてカレーを食べていた。
「カナちゃん、夢の中で言ってたよ。
『お母さん、お父さん、産んでくれてありがとう』って。
『またお母さんのお父さんの子供になりたい』だって」
それを聞いた母は声を出して泣き出した。
「ありがとう」と「ごめんね」を繰り返して…。
父は涙を流しながら、しかしぐっと堪えるように無言でカレーを食べ続けた。
※
後日談
大人になってから母に聞いた話だが、俺の熱が下がった日は姉の誕生日かつ命日だったそうだ。
どうやら俺は姉に助けられたらしい。確かに怖い感覚はなかった記憶がある。
そして翌年…妹が産まれた。
どことなくカナちゃんに似ているのは気のせいだろうか。
笑った顔がそっくりだった。