母から聞いた話です。
結婚前に勤めていた会計事務所で、母は窓に面した机で仕事をしていました。
目の前を毎朝、ご近所のおじいさんが通り、お互い挨拶を交わしていました。
果物や、家で採れた野菜などを差し入れてくれる日もあったそうです。
母はそのおじいさんと仲良しだったみたいです。
おじいさんが来る時はいつも、さくさくと雪を踏む音が聞こえて来るので、いつも窓を開けて挨拶していたそうです。
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でもある日、おじいさんは顔を出しませんでした。
家族の方に聞くと、
「山に行ったっきり帰って来ない」
と言います。
捜索願いも出され、母も事務所の人たちも、とても心配していたそうです。
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二日後の朝、いつものようにさくさくと雪を踏む音が聞こえて来ました。
母はおじいさんが戻って来たのだと思い、窓を開けて顔を出しました。
事務所の人たちも窓の所に寄って来ました。
でも誰も居ません。
足音は目の前で止まりました。
空耳かなと思って窓を閉めようとした時、また足音がして、それは段々遠ざかって行ったそうです。
その後、電話が鳴りました。
おじいさんの家族から、
「ついさっき、谷底で死んでいるのが見つかった」
との報せでした。
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母はこの話の締めくくりに、
「最後に会いに来てくれたんだねって、みんなで話したのよ」
と言っていました。
何だか聞いていて、ちょっと切なくなりました。