『おあし』という神様の話。
父が若い頃、家に親戚のお嬢さんを預かっていたらしい。
お嬢さんはまだ高校生で、家庭の事情で暫く父の家から学校に通っていた。
父の実家は当時商売をやっていたので、若い男が何人か住み込んでおり、そのうちの一人とお嬢さんは、何か良い感じになってきていたらしい。
※
ある日、お嬢さんとその若い人が一緒にコタツに入っていた。
しかし、暫くして男は真っ青になり、上に上がって行ったと思ったら、従業員用になっていた部屋から凄い悲鳴が聞こえた。
普段おとなしい男なのに、何事かと思った祖父をはじめとした父の家族は、慌てて二階へ行った。
すると男が泡を吹いていた。完全に白目をむいていて、死んでいるのかと思い、父は相当驚いたそうだ。
その男はその日、それっきり気がつかなかったので、看病は祖父母に任せて父は寝たらしい。お嬢さんも寝たそうだ。
※
次の日、男が起きてきたので、一体何があったのか問い詰めた。
話すのを嫌そうにしていたが、なだめすかして話させると、こういうことだった。
昨日お嬢さんとコタツに入っていたら、足が自分の膝辺りに当たる。
最初はただ当たっているだけだったけど、段々膝から太ももの辺りを撫でるように動き出した。
お嬢さんとその男は良い感じになってきていたから、それでお嬢さんがそうしているのだと思い、男はどきどきしながらその足を触ってみると、毛むくじゃらで筋骨たくましい男の足としか思えない足だった。
ぎょっとしてお嬢さんを見ると、何か恥ずかしそうにうつむいていたので、男みたいな足だけどお嬢さんの足なのかと、釈然としないながらもその足を触っていた。
暫くすると、お嬢さんがコタツを出た。でも男は足を触ったままでいた。
訳が解らなくなって、コタツ布団を捲ると何も無い。
気分が悪くなった男は、二階に上がって寝ようとした。
布団に入って暫く震えていたら、またさっきと同じ感触がし始めた。
思わず飛び起きて布団をはいでみた。
すると、そこには黒々とした脛毛の沢山生えた、紛れもない男の筋骨たくましい足が転がっていて、しかも親指をくいくいっと動かしたそうだ。
足の裏にはマメらしきものがあるのもはっきり見えたという。
男は思わず悲鳴を上げ、その後は朝起きるまで気がつかなかったのだ。
※
それからもその男は暫く父の家で働いていたけれど、夜は時々同じように悲鳴を上げて家中を騒がせるし、何より布団やコタツといった、捲って中に入るものを怖がるようになった。
そして段々精神的に不安定になって行ったので、実家に帰らせたそうだ。
男がそんな状態になった時、お嬢さんは
「それはきっと『おあし』だ」
と言ったそうだ。
お嬢さんは特に怖がる様子も無かったとか。
何でも、どこの地方か忘れたけど、どこか東北の方で言い伝えられている神様らしく、お嬢さんはその地方の人だったとか。
そのお嬢さんとは父もそれきり会ったことも無いし、今どうしているのかも知らないので、詳しい話を確かめてみたいと思うけれどそれも出来ないでいる。