小学1年生の頃、よく自分の家のお墓があるお寺で一人遊んでいた。
池の鯉を見たり、お寺に飼われていた猫のミケと遊ぶのが楽しかった。
じいちゃんのお墓参りをして、周りに生えているタンポポを摘んでお供えしたりしていた。
※
ある日、いつものようにタンポポを摘んでいたら、着物を着たおばあちゃんが声をかけて来た。
「泉さんとこの和子ちゃんでしょ? しばらく見ないうちに大きくなって」
と、おばあちゃんは笑っていた。
おばあちゃんはどこのお家のおばあちゃんかと聞くと、
「山口先生のとこのおばあちゃんよ」
と答えた。
山口先生は近所の小児科の先生で、私も熱を出したりするとその先生の所で診てもらっていた。
「おばあちゃんね、迷子になっちゃたのよ。
お墓までは来られたのに、先生のお家まで行く道が分からなくなって困ってたの」
「大人でも迷子になるんだね。
あっちの門を出て、まっすぐ行って、車が沢山通っている道を左に曲がって、またまっすぐ行くんだよ。
信号は渡っちゃだめだからね」
と教えてあげた。
おばあちゃんは、
「どうもありがとう。きちんと教えられて偉いわね。これはお礼」
と言って、明治ミルクキャラメルをくれた。
※
その夜、風邪をひいたのか熱を出した。
夜の20時頃、山口先生が往診に来てくれて、お尻に注射を打たれた。
おばあちゃんに偉いねと褒められた事を伝えたくて、昼間の事を話し、先生のおばあちゃんからもらった明治ミルクキャラメルを見せた。
先生と母親はびっくりしたように顔を見合わせた。
私は多分そのまま眠ってしまったのだろう。
目が覚めたら朝になっていて、熱もすっかりひいていた。
※
後から知ったのだけど、おばあちゃんは前の年に亡くなっていて、事情があり分骨したのだそうだ。
キャラメルはおばあちゃんの大好物で、入れ歯に付かないように、ゆっくり時間をかけて一粒ずつ噛まずに舐めていたらしい。