量子力学の核心部分が目に見えるかたちで現れる実験。観測者の存在によって量子の行動が確定する事が証明された驚くべき実験である。
この世界のもののありようが、粒子のようでもあり、波のようでもあることが浮かび上がってくる。
水をたたえた容器を、細い窓(スリット)が2つ並んだついたてで前後に仕切ったとしよう。こちら側から波を当てると、向こう側では2つの窓からそれぞれ半円状の波が広がる。それらの波の凸が重なったところは大きく盛り上がり、凸と凹が重なったところは相殺される。波ならではの「干渉」だ。
英国のT.ヤングは19世紀初め、この仕掛けで光が波として振る舞うことを確かめた。最近は、電子を1つずつ飛ばしても、この干渉が起こることが確かめられている。
日立製作所フェローの外村彰らの実験もその1つ。1989年に論文を発表、94年には英王立研究所で映像を披露し、話題を呼んだ。
電子1つが、ついたての窓を通った後にどこへ向かうかをみると、自分が通過した窓とは別の窓を、姿の見えない分身が通り抜けたとしか思えない道筋のとり方をする。
電子はたった1つでも分身を伴って波として振る舞うため、ついたての向こうで波の凹凸が帳消しになるところには行かないのである。