六甲山に出る牛女って知ってる?
実際それを見た人に話を聞いたよ。『牛女』にも色々種類あるらしいけどね。
走り屋の間の噂では、牛の体に女の顔(般若という話もあり)で、車の後を猛スピードで追っかけてくる『牛女』。
あと、丑三つ時になると出る女の幽霊で『牛女』。
最後に、女の体に牛の顔の『牛女』。私が聞いたのはこの牛女の話。
体験者は友人の両親だ。
※
4年程前のお盆の頃。2人は弟夫婦と共に、墓参りのため実家に帰省した。
4人は墓参りをし、実家で夕食を済ませてから帰ることにした。
他の3人は酒を飲んでいたので、おばさんが運転手、助手席にはおじさんが、後部座席には弟夫婦が乗り込んだ。
実家を出たのはもう真夜中近くだった。
しばらく山道を走っていると、前方の道沿いに畑がある。
『あれ…?』
道路のすぐ横、畑の畦道に、着物を着た老婆が座っている後姿が見えた。
首をうなだれ、背中だけが見える。
「こんな時間におばあさんが畑にいるなんておかしいわね」
後部座席の弟夫婦とそんな会話を交わし、スピードを緩めた。
老婆はこちらに背を向けたまま、身動ぎもしない。
そして老婆の真横に来た瞬間、座っていた老婆が、くるりとこちらに顔を向けた。
3人が悲鳴を上げる中、突然エンジンが止まった。
牛女が助手席側の窓を叩いた。
バァーーン!!
「きゃぁーーっ!早く車だして!!」
おばさんは震える手で何度もキーを回すが、エンジンは一向にかかってくれない。
「なんや!なんの音や!」
おじさんが叫ぶ。
「なんでみんな騒いでるんや!?」
「なんでって、あなたには見えないの? 真横にいるのに!」
「なにがおるんや!? なんで止まってる!?」
バーーーン!!
「牛の顔の老婆が窓を叩いてるのよ!!」
「そんなもんおらん!」
「いるのよ!そこに!あなたの真横に!」
バーーーーン!!!!
何度やってもエンジンはかからない。
「どけ!かわれ!」
おじさんが運転席に移り、キーを回した瞬間、嘘のように簡単にエンジンは回りだした。
「はやくだして!」
牛女は追っては来なかった。
それから里帰りの度にその道を通るが、『牛女』に会ったのはこの一度だけだったそうだ。
※
「信じられへんような話やろ? でもこれ読んでみ」
一緒に話を聞いていた友人(体験者の子供)が、1冊の本を差し出した。
『太平洋戦争末期、西宮が空襲に遭った。
牛の屠殺で栄えていた家が焼かれ、その家の座敷牢から頭が牛、少女の体をした物が出てきた。
”それ”は周りが見つめる中、犬を食っていた…』
時間の経過と共に、牛女もまた、人間と同じように歳を取っていったのか?
ではなぜ、見える人と、見えない人がいたのだろう?