奄美大島には、昔からカッパに似たけむくじゃらの妖怪・ケンムンがいると言い伝えられております。
子供のような小さな背丈で、体は毛むくじゃら、山羊の臭いをもち、頭には皿がありよく山や海で人を化かすと伝えられています。
10年前、家族で珍しく怪談話で盛り上がっていると、ふと思い出したように次兄が興奮した口調で話しはじめました。
「この前、夕方ごろ友達に借りた双眼鏡で裏山をみてたんだ。それでなんとなく遠くの山を見てたら、木のてっぺんの枝に、真っ黒な人が座ってるのが見えた!あれ、絶対幽霊だぞ!なんか、体育座りしてたけど、膝が頭より高くて……」
そこで私と母が同時にいいました。
「それ、霊じゃなくてケンムン!」
・ケンムンは山の木の上で休むことが多い
・ケンムンはよく体育座りをしている(だから昔は膝を抱えた座り方をケンムン座りといって嫌っていた)
・ケンムンは異様に足が長く、体育座りをしている時に膝が頭より高い
それを次兄に伝えると、
「あれがケンムンなんだ、本当にいたんだ…」と青い顔をしていました。
肉眼ではまず滅多に目撃されないケンムンですが、まさか双眼鏡で目撃できたとは、兄ちゃん、おそるべし!(笑)
すると、うちの母が、長年木こりをしていた祖父から生前教えられたという話をしてくれました。
もしも山で迷ったりして、どうしても一晩を暗い山の中で過ごさなければならなくなったら、木の枝か何かで自分の周りの地面に、自分を囲むようにして少し広めの円を書きなさい。
そして山の神様に声に出してお祈りしなさい。
「山の神様。私はかくかくしかじかな事情から、一晩こちらの山に泊まらせていただくことになりました。どうか今夜一晩、私が何事もなくいられますよう、私にこの土地を一晩だけお貸しください。この土地の中にいる間、私を一切の災いからお守りください」
そうしたら、一晩ケンムンや獣たちが円の周りをぐるぐる回るが、決して円の中には入ってこれない。
それが山の神様との約束だからだ。
だから、山に登る時と下る時は、山の神様への挨拶とお礼を忘れてはいけない。山の神様は、よく見てるからね。
ケンムンでも、山の神様には逆らえないということなのでしょうか。