その日は仕事で遅くなり、終電に乗って家へ帰ることになった。
駅に着き、改札を出て家へ向かって歩き始めると、駅前広場の片隅に何人か集まっていた。
よく見てみると、集まっている中心には『易』と書かれた紙の下がっている机と椅子があり、おばあさんが腰掛けている。
こんな地方の寂れた駅に占いかあ、初めて見たよ。
それにしても客が来ているなんて、もしかしてよく当たるのかな?
少し興味が湧き寄ってみることにした。
集まっているのは、サラリーマン風の人と学生っぽい人の二人だ。
机の上に蝋燭が一本立っていて、今占われているのは40歳くらいの綺麗な女の人だった。
取り敢えず、周りの人たちに話し掛けてみた。
私「ここって良く当たるんですか? 私はこの駅を毎日使っているのですが、占いなんて初めて見ましたよ」
サラリーマン「…」
学生「…」
誰も返事をしない。
学生の方は、私も知っている地元のS高校の学生服を着ていた。
何だよ!感じ悪いな!
ちょっとムッとしたが、おとなしく待つ事にした。
※
20分程待っただろうか。まだ最初の女の人も終わらない。
長いなあ。何を話しているんだ?
別に遮るものも無いので、傍に行って聞き耳を立ててみた。
女の人「それは避けられないのでしょうか」
占い師「そう。運命だからね」
女の人「それは避けられないのでしょうか」
占い師「そう。運命だからね」
低く小さな声で同じ言葉を繰り返していた。
何か変だぞ。
気味が悪くなって、もう帰ろうと振り返ると、今の今まで一緒に待っていたサラリーマンも学生も誰も居ない。
『えっ』と思う間もなく駅の明かりが消えて暗くなり、辺りは街灯の明かりのみとなってしまった。
『うそっ』と占い師の方を見ると、おばあさんも女の人も消えていて、机も椅子も何も無い。
私は少しでも早くその場を離れようと、必死に走って帰った。
※
それから暫くして、駅の近くの踏み切りに軽自動車が突っ込み、夫婦と子供の3人が亡くなったと新聞の地方版に載った。
小さな記事で名前と大まかな住所くらいしか掲載されていなかったが、子供の学校はS高校だった。