私が小学校3年生か4年生の時のことです。
友人5人と神社の境内で『ダルマさんが転んだ』をやっていました。
小学校の帰りに道草をくって、そこいらにランドセルを放って遊んでいました。
その神社は町の中にあるのですが、普段は神主さんも居ない所で、いつも表戸は閉まっていました。境内は教室4つ分くらいの広さです。
季節は秋で、一面に銀杏の葉が散っていたのを覚えています。
確か男子4人と、女子は私一人でした。私は小さい頃はきかん気で、男子と遊ぶことの方が多い子供でした。
男の子と遊ぶと意地悪をされることも多いのですが、それでも女の子と遊ぶよりはずっと楽しい、そんな子供でした。
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私が鬼の番になり、木にもたれて
「ダルマさんが転んだ」
と早口で言って振り向くと、みんなは止まっています。
そういうルールなのですが、とても強い違和感を感じました。
ピクリとも動かないし、呼吸をしている感じさえないのです。
そしてその時、私も振り向いた状態で体が固まってしまい、どこも動かせないことに気付きました。
ただし目の前の光景は見えます。
驚いたことに、宙に舞っている木の葉が、そのまま張り付いたように空中で止まっています。
その時、私の耳に微かな鈴の音が聞こえて来ました。それはどうやら神社の中から響いているようです。
顔を動かすことが出来ないので分かりませんが、神社の扉が開いたようです。
中から何かがこちらに歩み寄って来ます。
…5歩、6歩、そしてその鈴の音の主は私の目の前に来て、やっと姿を見て取ることが出来ました。
それは夜店で売っているようなキツネのお面を被った、白い着物を着た痩せた男の人でした。
齢は判りませんが、それほど老人とは思えませんでした。
その人は私の方を見て、
「やれやれ、お嬢ちゃん時を止めてしまったようじゃな。
驚いたことだ、前に会った時からもう二百年にもなる」
そして、動きを止めている私たち5人の一人一人の顔を見渡すと、
「ふうむ、やっぱり止めたのはお嬢ちゃんじゃな。
本当ならばそなたをもらうのじゃが、何か強い守りが働いておる」
そう言って4人の男の顔を順番にしげしげと見て、
「この子が一番兄弟が多いようじゃな。この子をもらおう」
そう言って一人の男の子の頭を撫でました。
そして私に向かって、
「あんたはこのことを覚えとるじゃろうが、誰にも言ってはいかん。
もし言ったら、この面を外してお前の家にゆく」
そして風景が溶けるように歪み、ダルマさんが転んだの場面は動き出しました。
何事も無かったかのように、男の子の一人がぴくりと動きました。元に戻ったのです。
後で聞いてみても、私以外は誰も時が止まったことも、お面を被った人が来たことも覚えていませんでした。
私は短い夢を見ていたのだと考えることにしました。
※
でも、そうとは思えない出来事がありました。
お面を被った人が頭を撫でた男の子が、数日後に亡くなったのです。
先生の話では、原因不明の高熱によるとのことでした。
※
あの時のことは夢ではなかったと今では思っています。
どうして時が止まったのか、どうして私が連れて行かれなかったのかは判りません。
ただ思い当たることは、私の祖母がかつて若い頃に、沖縄で拝み屋のようなものをやっていたと聞いたことがあるくらいです。
怖くなくてすみません。でも本当の話です。