俺が高校生だったある深夜、母が部屋に来て起こされた。
祖母が亡くなったということだった。
俺の実家は新潟県で、祖母は二年程前までは一緒に過ごしていたが、容態が悪くなってからは叔母の住む街の病院で養生していた。
親父は遠いこともあり祖母の面倒を叔母に任せた。
しかし叔母は程なく名古屋の病院に祖母を転院させる。
ただその輸送の最中の人工透析中に何らかのミスがあったらしく、病院に着いて僅か二日で亡くなった。
余談だが、親父は病院には怒らなかった。しかし叔母に激怒し現在も絶縁中である。
※
本題に戻る。祖母が亡くなった報を受け、すぐ近所に住む親族が数名やって来た。
暫くすると、強い風が吹いている訳でもないのに玄関の戸がガタガタ鳴り出した。
母が「おばあちゃんが帰って来た!」と反応した。俺は馬鹿らしいと思い、深夜のテレビ通販を視ている。
すると玄関のガタガタ音がなくなった。しかし次は玄関隣の窓のみがガタガタ鳴り始めた。
親族の一人が「ありゃ~、ほんとだわ。おばあちゃん帰って来たよ」と言い出した。
俺はその頃、通販の包丁に魅了され注文の電話を入れている最中であった。
親族の一人が「おばあちゃんを家に入れてあげよう」と言うと、
母は「入れちゃダメ。帰ってもらわなきゃ」
そんなやりとりをしていたのを覚えている。
しかし家の周りを何周も回っているかのように各所でガタガタ音が鳴ったり止んだりで、終いに可哀想になったのであろう。母が玄関を開けた。
その時である。母が玄関を開けて一秒も経たない時に電話中の俺の耳に確かに聞こえた。
受話器越しに受付の女の声に重なるように、
「はぁ、ただいまぁ…」
と祖母の声が聞こえたのである。
俺は驚いて一瞬背筋が凍ったが、すぐに冷静を取り戻し注文をこなした。
またまた余談だが、ちなみにこの時に買った包丁は『カツ・コンツァープロ・ナイフセット』である。
祖母が巡り合わせてくれた縁と思い、現在も使用しています。