学生時代の友人のM美の話をしようと思う。
その日、私はM美が一人暮らしをしているアパートへ遊びに行った。
私は絨毯に横になりながら、M美はベッドに腰掛けてのんびりくつろいでいたが、ふとベッドの下に目線をやると、人の鼻のようなものが見えた。
はじめは泥棒だと思い、息が止まりそうになった。しかし、どうも様子がおかしい。その顔はどんどん私の方に顔を近づけてきた。
私は恐怖でいっぱいになり、この部屋から早く出なきゃと思った。私はM美に何気なく一緒にコンビ二へ行こうと誘った。
M美は不思議そうな顔をしていたが、どうにか二人で家を出た。明るいコンビニで、私はM美にベッドで見たものの話をした。
まずベッドの下に鼻が見えて、だんだん人の顔が見えてきたこと。そして、その目をつむっているような顔が、M美の顔だったこと…。
それを聞いたM美は真っ青な顔をして、もうあの部屋には戻れないと泣き出した。私はとりあえずM美を落ち着かせて、近くの居酒屋に入った。
M美は恐怖から逃れたい様子で、焼酎を何杯も飲んでいた。店を出る前にM美がトイレへ行きたいと言い出し、トイレの前で彼女を待っていた時だった。
中から水を流す音が聞こえたあと、扉にぶつかったようなドンという音が聞こえた。
どうも様子がおかしかったので「M美、どうしたの?」とドアを叩いたが、声はしない。
急いで店員に伝えて鍵を開けてもらうと、M美はぐったり壁にもたれかかって虚ろな目をしている。
私は驚いて、すぐに救急車を呼んでもらった。救急隊員が駆けつけたが、助け出されたM美はすでに脈がなく、運ばれた病院先で息を引き取った。
死因はお酒の飲み過ぎによる急性の心臓麻痺とのことだった。
しかし、飲み過ぎが原因ではないと私は思う。
M美には話さなかったのだが、居酒屋に入る時、暗がりの向こうにベッドの下で見たあの眠ったようなM美の顔を私は見たのだ。私たちの後をつけてきたのだ。
私は今でも思っている。
あの顔は、トイレで一人になったM美の前に現れたのだと。