子供の頃の話。
大して遊べる施設がない田舎町だったので、遊ぶと言えば誰かの家でゲームをするか、山や集落を歩いて探検するかの2択くらいしかする事がなかった。
小学校が休みの日、最初は友だちとゲームしたりして遊んでたんだが、どうにも飽きてしまってどっか面白いところは無いかって話になった。
俺は、近所にうちの爺さんがよく山菜を取りに入っている山があるのを思い出した。
よくふきのとうやキノコをザルいっぱいに取って、家に持って来てくれていたんだ。
それでその山に行って山菜とかを取りに行くかという事になった。
一旦みんな家に帰って、山歩き道具を自転車に詰め込んでその山に向かった。
途中まではアスファルトの道路があるんだが、その先は何もない。
あとは薄ら暗い杉の森が広がっているだけだ。
どこから入ろうかと思案に暮れていると、友だちの一人が草むらの先にけもの道を見つけた。
午後15時くらいなのに、陽があまり差し込まなくて暗い。
用意がいい俺たちは懐中電灯を点けて進むことにした。
その山は、入って見ると思いのほか鬱蒼としていて山菜取り、なんて雰囲気ではなかった。
懐中電灯片手に草むらをかきわけて進む。
ちょっとした探検みたいで、小学生の俺たちは目的を忘れて奥へ奥へと入っていった。
暫く行くと唐突に草むらがない空間に出た。
俺たちは山の奥に自分たちしか知らない空間を見つけたという喜びで舞い上がった。
ここをしばらく探索の拠点にしようよと言って、そこで普段禁じられてるサバイバルゲームみたいなことや、花火やらでしばらく盛り上がった。
そんな折、友だちの一人が不意に声をあげた。
やっていなかった夏休みの宿題の再提出の期限が明日だった、と言い出したのだ。
もういいじゃん、一日くらい変わらないよ、とみんな言ったが、そいつは先生が怖いから、と言って先に抜けることになった。
そんな事をしている内に暗くなってきて、その日は帰ることになった。
当然、この日の事は友だちだけの秘密って事になった。
山を出る頃には真っ暗になっていたが、こういう山歩きには慣れていたので、特に問題なく山を抜けることが出来た。
ちょっと不気味な雰囲気になってきてはいたが、みんなバカ話に夢中でそんなこと気にもしなかった。
でも、自転車を停めたところに着いた時、話は止まった。
あいつの自転車まだ置いてあるじゃん。
携帯なんてなかった時代だ。
一回外で離れてしまえば、家に着くまで連絡の取りようがない。
小学生の俺たちは声をあげてそいつの名前を呼んだ。
一人が山に入って探そうって言い出したが、それは別の友だちに止められた。
もしかしたら自転車を置いて車で近くまで迎えに来てもらったかもしれないという話も出た。
何せ広場からここまではさっき通ったけもの道を真っ直ぐ来るだけなんだから、迷う訳がない。
落ちて迷い込むような淵も窪みも無い。だからそうに違いない、という事だったのだ。
そして俺たちはとにかくそいつの家に確かめに行くことにした。
だけど、そこに友だちはいなかった。
自分たちの遊びを隠すこともできず、友だちの親父さんに事情を話した。
親父さんは顔色を変え、寄り合いまで車で行ってしまった。
俺たちはどうして良いか分からず、とにかく帰ることにした。
家で事情を話すと、普段じゃ考えられないくらいこっぴどく怒られた。
他の友だちもそうだった。
その時はただ友だちと危険な遊びをしたこととか、友達を見捨てて帰ったことを責められたんだ、と思っていたが、爺さんが事情はまるっきり違うことを教えてくれた。
あの山には昔、この地方を治めていた城の出城があり、この地方が近くの有力な大名に呑み込まれる際に、真っ先に焼け落ちたところで、その跡地は今でも草木が生えないと伝わっているという事。
うちの爺さんはその供養で山に時折入っては神酒を撒いたりしているそうだ。
そんな所で花火やら戦の真似事をしていたら、連れて行かれる者が出ても仕方が無い、と静かに言ったのだ。
果たして友だちはまだ見つかっていない。
俺たちはあの時、山に入って探しにいくべきだったのだろうか?