不思議な体験や洒落にならない怖い話まとめ – ミステリー

きよみちゃん

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私が小学校三年生の時の話です。

そのころ、とても仲よしだった「きよみちゃん」という女の子がクラスにいました。

彼女と私は、学校が終わると、毎日のようにお互いの家を行き来しては、ふたりで遊んでいました。

その日は、彼女の家の台所のキッチンテーブルで、ふたりでドラえもんを読んでいました。

その内容は、ドラえもんが、のび太に切抜き絵本のようなものを出してあげます。

それには、ケーキやおかし、車など色々なものがあり、切り抜いて組み立てると、本物のように、食べれたり、乗れたりするというものでした。

きよみちゃんは早速「ぶるぶるちゃん(私のあだ名です)これおもしろい!まねしてみようよ!」と、画用紙や、ハサミ、色鉛筆を持ち出しました。

もちろん本物になることなどありえないと理解できる年齢でしたが、とても楽しかったのを覚えています。

そして、日も暮れかかり、私が家に帰らなければいけない時間になりました。

きよみちゃんは、いつもそうするように、玄関の外まで、私を見送りました。

そのとき、きよみちゃんが言いました。

「ぶるぶるちゃん。今日のこと、大人になっても忘れないで」

きよみちゃんが、いきなり変なことを言うのには慣れていたのですが、そのときは彼女の雰囲気がいつもと違うので、なんでー?と聞き返しました。

きよみちゃんは続けました。

「今日の私、32才の私なんだ」

ますます私には、訳が分かりません。でも彼女は続けます。

「2002年だよ。32才。ぶるぶるちゃんのこと思い出してたら、心だけが子供の私に飛んでっちゃった」

はっきりいって、聡明とはほど遠かった子供の私は、なんだかわからないけど、2002年と行ったら、超未来で、車なんか空飛んでたりする、という考えしかないくらい遠い遠い未来。

「ふーん。ドラえもんの未来からかー!」

なんて、おばかな受け答えしかできませんでした。

きよみちゃんは、そんな私を笑いながら、

「それが全然!マンガの世界とはちがうよー!」

と言いました。

そして、私ときよみちゃんは、また明日遊ぶ約束をして、別れました。

今、考えると、なんであのときもっと話しておかなかったんだろうと後悔しますが、なんせ子供だったし、きよみちゃんも私と同様、ふたりでよくSFチックなことを夢見ていたので、別にきよみちゃんが私に言ったことがそんなに変とも思わなかったのです。

翌朝、学校に行くと、いつものようにきよみちゃんが私に話しかけてきます。

まるっきり、いつものきよみちゃんでした。

そして、私もまた、きよみちゃんが私に言ったことなど、すっかり忘れて、そのまま毎日が過ぎて行きました。

そして、私たちは5年生になり、それと同時に私は地方へ引っ越すことになりました。

そのまま、きよみちゃんとは二度と会うことはありませんでした。

今年、2002年。私は32才になりました。

そしてハッとしました。あの日のきよみちゃんの言葉を思い出して。

もしかして、もしかして、もしかして……と。

私はその後も、引っ越しを繰り返し、今では海外在住です。

きよみちゃんを探したいのですが、結婚してれば名字も変わっているだろうし、どうやって見つけられるか。

私は片親でした。当時はまだ珍しく、世間からは白い目で見られがちだった。

「ぶるぶるちゃんと遊んじゃだめよ。片親なんだから」

なんて、よその子供の親が私の目の前で言うなんてことも、珍しくなかったし、大嫌いだった先生に

「片親だからね。目つきも悪くなるんだろう」

とクラスみんなの前で言われたこともあった。

そんな中、きよみちゃんだけが、私の友だちで、子供時代の唯一の理解者であったと思う。

会いたいと思う気持ちがそうさせたのか、2週間ほど前に、”あの日”の夢を見た。

あの日と同じ、きよみちゃんのおうちの台所。キッチンテーブルいっぱいに、画用紙と色鉛筆。私が自分の家から持ってきた、コロコロコミックが2冊置いてある(当時コロコロコミックは結構高価だったので、私ときよみちゃんは、かわりばんこに買って、ふたりで回し読みをしていました)。

台所からは、六畳ほどの居間が見え、きよみちゃんのお母さんが、緑色の座椅子に座ってテレビを観ている後ろ姿が見えます。

本当に、何もかもが、私がこの夢を見るまで忘れていたことまでが、はっきりと、目の前にありました。

きよみちゃんが、ケーキの絵を画用紙に描いて色を塗り、私はその横でハサミを持って、きよみちゃんが描くケーキを見つめています。

私は、夢の中で「これは夢だ」と自覚していました。

きよみちゃんがふと手をやすめて、小首をかしげて私を見ます。

私は彼女に言いました。

「きよみちゃん。今日の私も、32才!」

きよみちゃんは、びっくりした顔をしたと思うと、私を見つめて言いました。

「……忘れなかったんだ。ぶるぶるちゃん……」

きよみちゃんは、半分泣き笑いのような表情です。

私も、泣きそうになるのをこらえながら、言いました。

「ドラえもんの未来じゃなかったねー!」

そして、ふたりで泣きながらも、大笑いしました。

そして……私は目が覚めました。32才の私の体で。

涙が止まりませんでした。

ただの夢だったのかもしれない。でも、私は時空を超えて、あのときのきよみちゃんに会いに行ったのだと思いたい。

かつて、きよみちゃんが、そうしてくれたように。

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