今になっても一体何だったのか解らない謎な体験です。
小学5年生の時でした。日曜の夕方、通っていた小学校の校庭の砂場で弟と遊んでいました。
段々と辺りが暗くなってきて、そろそろ帰ろうかなと思い始めた時、ふと見上げると直ぐ側に見知らぬおじいちゃんが立っていたんです。
すごく草臥れた国民服と言うのか…カーキ色の服を着ていました。
足にはゲートルを巻いていて、帽子を被り、腰のベルトから巾着のような物をぶら下げていたのも覚えています。
おじいちゃんはニコニコと笑っていましたが、何故か白目ばかりで黒目が無いような気がしました。
鮮明に覚えているのは、砂場に設置してあった鉄棒の上におじいちゃんが立っていて、白目ばかりの目で笑いながら、サーカスの綱渡りのように両手でバランスを取り、膝を真っ直ぐ伸ばして歩いているシーンです。
子供心に異様さを感じた私は立ち上がってダッシュし、弟が乗って来た自転車に飛び乗ると一目散に逃げ帰りました。弟は泣きながら必死に走って後を追いかけて来ました(弟よ、スマン)。
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家に帰り着き、母がご飯の支度をしている間、弟と私は「さっきのおじいちゃん怖かったねー」などと興奮しながら話していました。
すると、玄関のチャイムが鳴りました。私達は何か嫌な予感を感じて顔を見合わせました。
母が玄関に行きます。私達は玄関と居間を仕切るカーテンの隙間に隠れ、恐る恐るそれを見守りました。
母が玄関の扉を開けると、そこにはあのおじいちゃんが立っていました。
付いて来た!
恐怖の余り硬直している私達の耳に、おじいちゃんが「ここは○田○子さんの家かね?」と訊く声が聞こえ、更に肝を潰しました。
それは間違いなく母の名前だったからです。
母が怪訝そうに「はぁ…そうですが…」と答える声を最後に、その後の二人の会話は私達の元までは届きませんでした。
玄関先で、10分くらいは立ち話をしていたように思います。私は母が心配で心配で堪りませんでした。
やがておじいちゃんは帰り、母が居間に戻って来ました。
私達兄弟は母に縋り付き、「今の人は誰?」と問い質しました。
母はいつになく厳しい顔で、「さぁ…でもあの人は凄い業を持った人やね」とだけ呟いたのです。
※
あれから十年以上が経ちますが、今だにおじいちゃんの正体は判りません。
不思議なのは、母はこの事を全く覚えていないのです。
私も弟もはっきり覚えているのに。おじいちゃんは母の名前をはっきり言ったのに…。