あまり怖くないかもしれないけど、今日のような雨の日に思い出すことがあるんだ。
高校2年生の夏休みの時の話。
友人二人(AとBとする)と買い物に行っていると、突然雨が降って来た。
傘を持っていない俺達は大慌てだった。
すぐさま近くにあった屋根付きのバス停に避難した。
「雨の予報なんて無かったよな?」
なんて友達と言い合いながら、Bがスマホを見ながら
「ああ、これゲリラ豪雨ってやつだ」
と確認していた。
仕方が無いので雨が止むまで待とうということになった。
雨の勢いは強く、周りが白く見えるんじゃないかというほど激しく降っていた。
時々雷が鳴り、雷が苦手な俺はビビってAとBに笑われていた。
※
それから何分くらい経ったのか、俺達は無言で雨が止むのを待っていた。
するとBが、
「あれ? 人がこっちに来るぞ」
と言った。
Bが指差した方を見ると、確かに前方から女の人がこちらへ歩いて来る。
俺「雨宿りか?」
B「そうか? 雨宿りならもっと走って来るだろ」
A「ってか、傘差してるじゃん。バスに乗る人だろ普通」
そんな会話をしていたら、その女の人は俺達の近くまで来た。
その女の人は長髪で黒いワンピースを着ていて、黒いレース模様の傘を差していた。
そして片方には黒い傘を三本携えている。
その女の人は俺達の前に立ち止まり、三本の傘を俺達に差し出した。
A「えっと、すいません。俺らに傘を貸してくれるんですか?」
Aがそう聞くと、女の人が静かに頷いた。
A「どうする? 貸してもらう?」
俺「いやいや、知らない人に傘を貰うのかよ」
B「それもそうだな…」
A「よし、解った」
俺達は傘を断った。
A「すいません。お気持ちは嬉いんですが、遠慮させていただきます」
すると女の人は差し出した傘を引っ込めて、そのままどこかへ歩いて行った。
※
女の人の姿が見えなくなると、Bが
「今の女の人の顔、見たか?
顔が恐ろしく白い気がしたんだ…」
と言うものだから、俺達は笑った。
「気のせいだろ? 傘も服も黒かったから、顔が白く見えたんだろ」
と笑ってやったら、BとAの顔が曇る。
B「ちょっと待て。あの女の人の傘も服も赤かったじゃないか!」
A「は? 白かったぞ?」
俺「ちょっと待てよ。怖いよ。何で全員あの女の色が違うんだよ」
俺達は三人で雨が止むまで、女の人の消えて行った方を見るだけだった……。
※
特にその後、何か起きたということは無かった。
ただ、Bはその後、風邪を一週間くらい患って夏休みの殆どを潰した。
もし傘を受け取っていたらどうなってたんだろうな……。