もう10年くらい前、俺がまだ学生だった頃の出来事。
当時、友人Aが中古の安い軽自動車を買ったので、よくつるむ仲間内とあちこちドライブへ行っていた。
その時に起きた不気味な出来事を書こうと思う。
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ある3連休、俺たちは特にすることもなく、当然女っ気もある訳もなく、意味も無く俺、A、Bで集まってAのアパートでだらだらとしていた。
そしてこれもいつものパターンだったのだが、誰となくドライブへ行こうと言い出して、目的地もろくに決めず出発する事になった。
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適当に高速に乗ると、何となく今まで行った事のない方面へと向かう事になり、3、4時間ほど高速を乗り、そこから適当に一般道へと降りた。
そこから更に山の方へと国道を進んで行ったのだが、長時間の運転でAが疲れていたこともあり、どこかで一端休憩して運転手を交代しようという事になった。
暫らく進むと、車が数台駐車できそうな、ちょっとした広場のような場所が見付かった。
場所的に冬場チェーンなどを巻いたりするためのスペースだろうか?
取り敢えずそこへ入り、全員降りて伸びなどをしていると、Bが「なんかこの上に城跡があるらしいぞ、行ってみようぜ」と言ってきた。
Bが指差した方を見ると、ボロボロで長いこと放置されていただろう木製の看板があった。
そこには「○○城跡 徒歩30分」と書かれており、腐食して消えかかっていたが、手書きの地図のようなものも一緒に描かれている。
どうも途中に城跡以外に何かあるらしいのだが、消えかかっていて良く分からない。
時間は確か午後15時前後くらい。徒歩30分なら暗くなる前に余裕で戻って来られるだろう。
俺たちは何となくその城跡まで登ってみる事にした。
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20分ほど細い山道を登った頃だろうか、途中で道が二手に分かれていた。
看板でもあれば良いのだが、あいにくそういう気の利いたものは無さそうで、仕方なく勘で左の方へと進んでみる事にした。
すると、先の方を一人で進んでいたAが、上の方から俺たちに「おい、なんかすげーぞ、早く来てみろ!」と言ってきた。
俺とBはなんだなんだと早足にAの所まで行ってみると、途中から石の階段が現れ、更にその先には城跡ではなく、恐らく長いこと放置されていたであろう廃寺があった。
山門や塀、鐘などは撤去されたのだろうか…そういうものは何も無く、本殿は形を留めているが、鐘楼や幾つかの建物は完全に崩壊し崩れ落ちている。
本殿へと続く石畳の間からは雑草が生え、砂利が敷き詰められていただろう場所は殆ど茂みのような状態になっていた。
ただ不思議なのは、山門などは明らかに人の手で撤去されたような跡があったにも関わらず、残りの部分は撤去もされず朽ちていて、かなり中途半端な状態だった事だ。
時間を確認すると、まだまだ日没までは余裕がありそうだ。俺たちは何となくその廃寺を探索することにした。
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周囲を歩き回っても特に目に付くようなものは無く、ここから更に続くような道も見当たらなかった。
Aと「多分さっきの分かれ道を右に行くのが正解なんだろうなー」と話していると、本殿の中を覗き込んでいたBが「うおっ!」と声を上げた。
Bの方を見ると本殿の扉が開いている。
話を聞いてみると、ダメ元で開けてみたらすんなり開いてしまったと言う。
中は板敷きで何も無くガランとしている。見た感じ結構綺麗な状態で中に入って行けそうだ。
中に入ってみると、床はかなり埃だらけで、恐らく大分長いこと人が入っていないのが分かる。
あちこちを見回していると、床に何か落ちているのが見えた。
近付いてみると、それは埃にまみれ黄ばんで皺くちゃになった和紙のようで、そこにはかなり達筆な筆書きで「うたて沼」と書かれていた。
なんだなんだとAとBも寄って来たので、俺は2人に紙を見せながら「うたてって何?」と聞いたのだが、2人とも知らないようだ。
そもそも、この寺には池や沼のようなものも見当たらない。
本殿の中にはそれ以外何も無く、「うたて沼」の意味も解らなかった俺たちは、紙を元あった場所へ戻すと、城跡へ向かうために廃寺を後にした。
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元来た道を戻り、さっきの分かれ道を右の方へと進むと、すぐに山の頂上へと辿り着いた。
そこには朽ちた感じの案内板があり、「○○城跡 本丸」と書かれている。
どうやらここが目的地のようだった。
山頂はかなり開けた広場になっており、下の方に市街地が見える。かなり景観の良い場所だ。
何となく下の方を見ると、さっきの廃寺も見えた。
3人で「さっきの廃寺って結構広い敷地なんだなー」などと話していると、ある事に気が付いた。
寺の庭を回った時に一切見かけなかったはずだが、庭の端の方に直径数メートルくらいの大きな黒い穴のようなものが見える。
「あんなものあったっけ?」と話していると、寺の庭に何か小さな動物が出てきていた。
そしてその動物が庭の中を走り出した瞬間、その穴のようなものが動いて、まるで動物が穴の中に消えてしまったように見えた…。
訳が解らない現象を目の当たりにした俺たちは「…今あの穴動いたよな? なんだあれ…」と唖然としていると、更にとんでもない事が起きた。
その物体が突然宙に浮くと、かなり高い距離まで昇り、そのまま移動し始めた。
その時になって、俺たちはあれが穴などでは無く、真っ黒で平面の、何だかよく解らない物体である事に気が付いた。
平面状の物体は結構な高さまで浮いて、俺たちが来た道の上を山頂へと向かって進み出した。
その時、恐らく移動する物体にびっくりしたのだろう。木の間から大き目の鳥が飛び出し、宙を浮く平面状の物体とぶつかった。
しかし、鳥はそのまま落ちる事も、物体を通り抜ける事も無く消えてしまった…。
何が何だか解らないが、とにかくあれは何かヤバそうなものだ。そしてそのヤバそうなものは、明らかに俺たちの方へと向かってやって来ている。その事だけは理解できた。
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取り敢えずここからすぐに退散した方が良さそうだ。
3人でそう話して気が付いた。あの物体は俺たちが登って来た道沿いにやって来ている。ということは、来た道を戻れば確実に鉢合わせしてしまうという事だ。
逃げようと言ったは良いが、どうしたら良いのか分からない。するとBが「ここ通れそうだぞ!」と茂みの方を指差した。
そこへ行ってみると、近くまで行かないと分からないであろうくらい細い獣道のようなものが下へと続いている。
ただし、この道がどこへ続いているか全く判らない上に、俺たちが登って来た道とは完全に反対方向だ。
当たり前の事だが、逃げられるには逃げられるが、車からは遠ざかる事になる。
その事はAもBも解っていたのだろう。この獣道を下るかどうか躊躇していると、突然耳に違和感を感じた。
感覚としては、車で山を登っていて気圧差で耳がおかしくなる感じが一番近いだろう。
AもBも同じ違和感を感じたらしく戸惑っている。
その時、俺はふと下の方を見た。
すると、例の物体はもうすぐそこ、恐らく二の丸であろう平地の部分までやって来ていた。
もう迷っていられるような余裕も無い。
俺は2人にもうあれが凄くそこまで来ている事を伝えると、思い切って獣道のある茂みを下る事にした。
2人もそれに続き、殆ど茂みを掻き分けるように道を下って行くと、後ろの方からAが「ヤバイ、もうすぐそこまで来てる!急げ!」と言ってきた。
俺が後ろを振り返ると、例の黒い物体がもうあと10メートルくらいの所まで近付いて来ている。
俺たち3人は最早草や木の枝を掻き分けることすらやめ、がむしゃらに獣道を駆け下りた。
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どれくらい走っただろうか、暫らくすると木の間から舗装された道路が見えてきた。
俺たちは泥だらけになりながらも必死で殆ど転がるように道を下り、なんとか舗装された所まで辿り着くことが出来た。
その時、突然金属質の耳鳴りのような音が聞こえ、次いで後ろから「バチンッ!」と何かが弾けるような音が聞こえてきた。
驚いて後ろを振り向くと、そこには例の黒い物体は無く、爆竹か何かを破裂させたような、そんな感じの煙が漂っているだけで、俺たちは呆然としてしまった。
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その後、民家も無いような山道を散々迷い、殆ど真っ暗になる頃にやっと、最初に車を停めた所まで戻る事が出来た。
結局、あれが何だったのかは判らない。そもそもあんな体験をしてまた同じ場所へ戻る勇気など無かったし、そんな事をしても俺たちに何の得も無かったからだ。